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第1章 4話 転校生
「お前……」
凪たちは突然現れた転校生に、怯んだように一歩後ずさる。
「さぁって、誰から僕にお仕置きされたい?」
転校生は、まるでファミレスのメニューを選ぶかのように楽しげに相手を一巡した。
王道くんって、確か族潰しとかいう設定だったっけ。チームやってたとか、考えてみたら結構無茶振り設定だよね。でも言うだけあって、気迫が違う気がする。かなり強そうだ。
それでも飛鳥も僕も戦闘要員じゃないし、こちらは一人向こうは多数、圧倒的に不利だ。それを見てとったのか、凪の顔に再び余裕の表情が浮かぶ。
「あなた一人で何とか出来るとでも?」
「さて、そんなのやってみなきゃ判らないし。それに……」
ちらりと、王道くんこと黒須は、こちらへ視線を向ける。釣られるように自分の背後を振り返った僕は、喜びの混じった声を上げた。
「緋色!」
眠そうに欠伸をしながらこちらへやって来た彼は、片方の手に不良を下げている。凪たちの仲間だろうか。もしかしてそんな寝起きの風なのに、既に一人倒したの? なにそれこわい。
「緋色アカツキ……」
凪が忌々しそうに名を呼ぶ。名前を知ってるって事は、緋色って結構有名人なのかな。一匹狼って位だから、ケンカも強いんだろうし。
「せっかく昼寝してたってのに、煩くて寝てらんねぇし……」
ぽぃっと、文字通り不良を投げ捨てると、うざったそうに髪を掻き上げる。
「なら、直ぐに片付けますので、お構いなく」
凪は苦い表情のまま緋色に応じるけど、彼は首を横に振った。
「そう言う訳にも行かねぇんだよ。そこにいるの俺のダチだし、……そっちのも丸っきり知らないヤツじゃねぇしな」
後半の言葉に、隣にいる飛鳥が口を尖らせる。
「緋色、僕は――」
「煩いですよ、お姫さま」
くすり、と、緋色が嗤うと、飛鳥は言葉を途切らせ、ぐっと口を噤んだ。
「お話しは後で、飛鳥センパイ」
ぽきぽきと指の関節を鳴らしながら、緋色は僕らの前に立つと、王道くんの隣に並んだ。
「これでこちらは二人。さぁ、どうする?」
楽しげに、そう言う黒須。
凪は無言でしばらくこちらを睨んだ後、踵を返した。その後ろを不良たちも追う。
……た、助かった……のかな。
へなへなとしゃがみ込んだ僕に手の平が伸びて来る。
「大丈夫?」
顔を上げると、手は分厚いレンズのメガネを掛けた転校生から伸びていた。レンズに隠れて表情は判らないけど、気遣うような声音と、どこか可笑しそうな、悪戯っぽく弧を描く口元が見えた。
「あ、ありがとう、助けてくれて……緋色も」
有難く手を借りて立ち上がると、緋色の方を見上げる。緋色は無言で僕の頭をくしゃくしゃに撫ぜた。
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