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「そろそろ入れるよ?」  耳元で囁いてくるその声は優しすぎて、勘違いしそうになるから困る。 「渡瀬?」  即答しない佑生(ゆうき)に焦れたのか、確認するように顔を窺ってくる。近距離で視線が絡んだ。 少し茶色っぽい目には、焦燥が浮かんでいた。いつもは余裕たっぷりに微笑んでいるのに、珍しく真顔だ。よけい格好良く見える。  もう、どうにでもしてほしい。彼になら何をされても良い。  ゴムを着けたそれで、指で十分に解された場所を突いてくる。ノックするように。  かあっと、腹の中が熱くなった気がした。さきほど指で暴かれた弱いポイントが、自発的に疼きだす。更に、興奮したような彼の息遣いと、視界に映る凶器みたいに大きい牡に、興奮しすぎて四肢が震えた。 「入れて、いいよ」  乾いた喉からは、掠れた声しか出てこなかった。 「ん、じゃあ入れるね」  勃起したそれに手を添えて、緩んだ蕾にねじ込んでくる。その圧倒的な存在感に、佑生は息をのんだ。  ゆっくりと同性の性器を飲み込まされる感触に、全身から嫌な汗が浮き出た。異物感がすごい。目いっぱいこじ開けられた後孔にもピリピリと痺れるような痛みが走る。 「はぁ……ふ……」  必死に深呼吸を繰り返した。体から力を抜かなくては。このままじゃ、太い部分が通過してくれない。お互い苦しいままだ。 「ゆうき」  甘い声で己の名前を呼ばれ、佑生は覆いかぶさってくる男の顔を見た。一年間、佑生が片思いをしていた相手――悠真(はるま)の顔を。 「すき」  思わず佑生はつぶやいていた。ずっと好きだった相手と、今こうして体を繋げている。そう思うだけで歓喜が全身を貫いた。  悠真の顔が近づいてくる。佑生は彼の背中に腕を回して、口づけを受けた。  二度、三度と触れるだけのキスを繰り返したあと、互いに口を開けて、舌を絡め、吸って、相手の口内を侵略していく。  悠真のキスは巧みだった。佑生とのキスは初めてなのに、感じる場所をしっかり捕らえて攻めてくる。上顎、舌の裏側、側面。舌先でそっと撫でられるたびに声が漏れた。こんな気持ちの良いキスは初めてだ。 「ん……緩んできた」  キスの合間に、悠真が囁いた。と思ったら、腰を一気に進められる。引っかかっていた先端部分がヌプリと粘度のある音を立てて通過した。 「あ――あっ」  長大なものが、少しずつ奥へと侵入を果たしていく。 「は、あ……あっ」  好きな男の性器を腹いっぱい収められている。それに、開き切った蕾は、発熱したみたいにジンジンと脈打っている。  自然と涙が出てくる。こんな経験は初めてなのだ。興奮と怖さ、嬉しさでもみくちゃにされ、訳がわからない。 「苦しい? 大丈夫?」  悠真が労わるように、髪を撫でてくれる。頬をさらっと撫でてくれさえする。  自分たちは恋人でもないのに。  今日は一日目だ。彼の「お気に入り」に自分が追加された、一日目。  それでも良いと思ったから、今こうしている。  佑生はかぶりを振って、先を促した。 「動くよ」  不安を払拭してくれる優しい声。でも、欲望も確かに含有した声。  悠真が本格的な抽挿を開始させた。  両手で佑生の腰を持ち、内部に収めていた性器をゆっくりと引き抜いていく。その、太くて長いものが中を這う感触に、悪寒の混じった快感が湧き出てくる。異物が消えてホッとするのと同時に、喪失感で蕾が勝手に収縮する。  ふいにまた、とろみのある液体が後孔に塗りこめられていく。ローションを追加してくれたようだ。 「ごめん、あんまり持たない」  気持ちよすぎる、と唸るように言って、悠真がまた、腰を寄せた。ずちゅっと結合した部分から音が鳴った。硬く隆起したもので何度も感じる場所を突かれた。 「あ、あ、あ」  声が勝手に口から飛び出る。初めてなのに中で感じている自分は、どう考えてもおかしい。  ――なんでこんなに上手いんだよ。  悠真も男は初めてだって言っていたのに。女性とは沢山、数えきれないほどしてきたからか。 「佑生、気持ちいい?」  荒い息を吐き、腰を控えめに動かしながら、悠真が問うてくる。 「んっん……」  佑生は必死に首を縦に振った。本当に気持ちが良かった。腸内をかき回される不快感は少しだけあったけれど――。また彼としたいから、「気持ちいい」と声に出して訴えた。 「きもちい……あ、あ」  そこを突かれるたびに、腹を押されて音が出る玩具みたいに、声が出た。  一段と中にいる悠真が大きくなって、腰の動きも激しくなっていく。  佑生は自分の勃起したものを手で包んだ。そのまま上下に擦ると熱波のような快感が訪れる。それと同時に、意図せずに咥え込んでいた男のものもぎゅっと締め付ける。  更に中のものが膨れ上がる感触に、佑生は怖くなった。  堪えるように悠真が眉間に皺を寄せ、腰の動きを止めた。と思ったら、勢いよくそれを引き抜いたあと、また力強く腰を寄せられ、佑生の全身は電流を流されたみたいにビクン、ビクンと痙攣した。 「――うっ……あ」  低く色っぽい呻きを発して、悠真が佑生の体に覆いかぶさってきた。  彼が自分の中で射精してくれたことが分かる。そして自分も――彼に初めて抱かれてイった。腹部に滑った感触がある。  体の相性は良い。多分、凄く。  ぼんやりと、自室の天井を眺めながら、悠真の背中に腕を回した。すると、内部で勢いを失ったはずのものが、また存在を誇示してきた。 「もう一回して良い?」  甘えを含んだ優しい声に、佑生は苦笑しながら頷いた。  断れるわけがない。  ここで断ったら、もう悠真は、自分と寝てくれなくなるかもしれないのだ。
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