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彩佳と別れ学食に向かうと、すでに定食のチケット売り場には列ができていた。今日は好物のコロッケが入っているA定食にしよう、と考えたときだった。大きい声で名前を呼ばれた。声がした方を見る。と、四五名の男女に囲まれて席に座っている悠真が、こちらに向かって手を振っていた。
「A定食買っておいた。早く来なよ」
爽やかな笑顔で、また「佑生」と呼んだ。
「ありがとう」
礼を言いながら、急いで彼の元に向かう。
悠真の隣の席はちゃんと空いていた。まるで特等席だ。
――俺が一番、なのか。
今現在はトップに立ったのだと、実感した。先ほど聞いた彩佳の話と、今のこの状況を鑑みて。
「早く座りなよ」
笑いかけてくる悠真の視線は、佑生だけに注がれている。
――夢みたいだ。
素直に嬉しい。一番になんてなれないと思っていた。男だし、容姿だって特にいいわけじゃない。これといって特筆すべき取り柄だってないのだ。
――でも、好きって気持ちは負けない。
もし一番から圏外に落ちるときが来ても、彩佳のように潔く悠真から離れることなんてできない。一番じゃなくても良いから傍にいたいと思う。
A定食を食べている途中、悠真が耳元で囁いてきた。
「本当は二人きりで食べたかったな。明日から違う場所で食べよう」
吐息が首筋に触れるたび、全身に甘い痺れが走った。
二人の交際は順調に進んだ。
悠真に誘われたときは絶対断らないようにしたし、彼に会いたいと思ったときは素直に自分からLINEをしたり電話をかけた。
いったん悠真は、女性関係を一掃したようで、彼のスマホに電話が掛かってくる頻度も減った。
セックスのときはお互い情熱的に求め合うし、それ以外のときも一緒にいて楽しい。穏やかな時間を過ごせて、喧嘩をすることも滅多になかった。
そして佑生は、一番の地位をキープし続けた。
どこかで油断していたのかもしれない。
もうすぐ悠真の一番になって一年が経つという頃、佑生は一週間、実家に帰省することにした。一週間ぐらい自分が不在でも、悠真が他の女のところに行くことはないだろうと信じていた。それだけ二人の関係は安定していたのだ。
一週間ぶりに横浜のアパートに帰ってきて、すぐに悠真に電話をかけた。七日間会えないだけで、だいぶ悠真ロスになっていた。
帰省中、あまり彼に連絡ができなかった。実家では真剣な話し合いが行われていたのだ。
この半年で、実家の経済状況は更に悪くなっていた。父親は腎臓を悪くして、これ以上酷くなると透析が必要になると医者に言われたという。今のストレスだらけの職場で働いていたら、本当に体を壊すと痛感したようだ。正社員の職を捨てて、パートで無理のない範囲で働くことにした、と佑生に告げてきた。
「仕事も大事だけどな、健康が一番大事だってわかったんだ」
その言葉に、佑生は強く頷いた。
父親が腎臓病を患っているという事実にショックを引きずりながらも、現実的な話をしっかりと受け入れた。
佑生の大学の費用は三年の後期までしか支払えないと言われたのだ。
自分で何とかするしかない。幸い、この三年間で取りこぼした単位は一つもない。四年での必修単位はかなり少ない。バイトをする時間を増やすしかない。卒論と就職活動も控えていたが、頑張るしかない。
物思いに耽っているうちに、三十分も時間が経過した。インターホンが鳴って、鍵を開ける音がする。
佑生は玄関まで走った。ドアを開けて、すぐ鍵を掛ける悠真と目が合った。
「お帰り」
言いながら、悠真がぎこちない笑みを浮かべた。
「どうしたの」
つい聞いていた。
いつもの全開の笑顔とは言い難くて。
「何が?」
今度は可笑しそうに悠真が笑うので、自分の気のせいだと思った。いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。
「ただいま、は?」
コツン、とおでこを軽くぶつけられ、佑生も軽く笑った。
「ただいま」
ふたりはゆっくりと抱擁し、互いの服を脱がせていった。
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