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 夏休み中、佑生はバイトに勤しんだ。遊園地のバイトが休みの日は、コンビニのバイトを入れて、遊ぶ暇がないほどぎっしりスケジュールを埋めたのだ。  お金が欲しい。それが一番の理由だった。  佑生の実家は裕福ではない。父は普通のサラリーマンだ。たいして給料がよくないのに激務だとかで、会えばいつも愚痴を言ってくる。母はパートでファミレスのウェイトレスをしている。ランチタイムだけ。佑生の妹は高校に上がったばかりだ。すでに四大進学を志望していて勉強を頑張っているらしい。  経済的余裕がないのに、佑生の学費は払ってくれている。すごく心苦しい。もっと勉強を頑張って地元の国立大を目指せばよかったと、今でも後悔していた。  これ以上の負担はかけられないと、自分が借りているアパートの家賃、水道光熱費をバイトで稼いでなんとか支払っている。  就職してお金が溜まったら、学費を少しずつ親に返金しようとも思っていた。  九月の一週目が終わり、遊園地の短期バイトも契約が切れた。急に時間を持て余すようになり、余計なことを考えるようになった。  ――悠真、どうしてるかな。  地元の友人たちと遊び惚けているのかもしれない。スマホを見る。LINEには未読メッセージが届いていない。 「あーあ」  まだ当分、悠真とは会えない。大学が始まるのは十月一日からだ。  フローリングの床に寝転がりながら、空白の午後の予定を、どうやって過ごそうか考える。  佑生は財布を手に取り、札入れに差し込んでいたチケットを引き抜いた。それはコスモランドのアトラクション乗り放題のパスポートチケット。二枚ある。アルバイト終了時に社員割引で買ったものだ。 「会いたいなあ」  自分から遊びに誘う、というのは駄目だろうか。迷惑がられてしまうだろうか。  自分たちのLINEのやり取りは、八月三日で終わっている。  佑生は勇気を奮い立たせて、メッセージを打った。自分から誘わなければ、夏休み中もう悠真に会えないかもしれない。それは嫌だった。顔を見たい、声を聞きたい、それにセックスしたい。そう思い至ったとたん、下腹がずくり、と疼いた。 『今日の午後会えない? コスモランドのパスポートがあるんだ。遊べないかな』  メッセージを送信したあと、間違ったかな、と不安になった。悠真は佑生のことをセフレとしか認識していないのかもしれない。考えてみたら、中学とか高校レベルのデートに誘う文面だ。読み返すと恥ずかしくなった。  ――いや、そんなことよりも……。  佑生は急に思い出した。前回会ったときに、彼がコスモランドは飽きた、と言っていたことを。  ――やっぱり間違えた。  冷や汗が出てきた。  でも、送ったメッセージをなかったことにはできない。佑生は祈るような気持ちで、LINEの画面を見つめ続けた。二分三十秒後、返信が来た。 『いいよ。準備したら佑生の部屋に行くよ』  メッセージを確認したとたん、やった! と声を上げていた。何度も何度も同じ文面を声に出して読んだ。バカみたいだ。でも嬉しくて仕方ない。当たり前だ。悠真と一か月以上会っていなかったのだ。  LINEのやり取りから一時間二十分後、悠真は本当にやって来た。  玄関のドアを開けて出迎えた瞬間、喜びが込み上げてきた。無性に体をくっつけたくなって、閉まったドアに悠真を追い込んで自分からキスをしていた。  自分でも驚くほど積極的な行動。  悠真も積極的に舌を動かしてくれるものだから、つい調子に乗った。ねっとりしたキスを飽きるまで続けてようやく唇を離すと、悠真が呆けた顔をして佑生を見つめてきた。急に羞恥心が込み上げてきた。  ――遊園地に行こうって誘ったのに、これじゃあセックスが目的みたいじゃないか。 「あ――えっと……遊園地、行こう?」  唾液で濡れた口元を拭い、気持ちを切り替える。すでに行く用意はできている。ボディバッグに財布とチケットとハンカチ、ティッシュ、ペットボトルのイオン水に、塩タブレット。完璧だ。 「なに言ってるの」  悠真が苦笑しながら、佑生の手首を握った。 「こんなキスしておいて、お預けするの」  手首に回った熱い指に、更に力が込められる。そんな煽るようなことを言われたら我慢できなくなる。 「したい」  素直に出てくる科白に、悠真が口角を上げた。見惚れてしまうほどいやらしくて格好良い顔。 「俺もしたい」  言うと同時に、佑生の両脇に手を差し込んでくる。 「え、ちょっと、やめ」  すんなりと縦に抱き上げられ、ベッドに連れて行かれる。  仰向けに寝かされ、キスを何度もされた。それだけですでに兆していたものが、ムクムクと更に膨張していく。  器用な手でさっさと服をすべて脱がされる。 「ん……」  下着越しに局所を触られただけで鼻にかかった声が漏れた。  重なって来た彼の股間も熱い。挿入可能なぐらい硬く反っている。  ――うそ、もう勃ってる。キスだけで? 「早く入れたい」  彼にしては性急だった。いつもはもっと余裕があった。キスに時間をかけるし、局所以外の場所を撫でたり舐めたりしてくれるのに、今日は違う。  両脚を広げられる。ローションの滑りを借りて、すぐに悠真の指が忍び込んでくる。注意深く、でも、やはり急くように。  佑生のそこは、だいぶ男を受け入れることに慣れてきていた。解されかけの蕾は、食んでいる指を容易く奥へと導いていく。 「だいぶ慣れてきた」  低い囁き声は、興奮で掠れていた。  三本の指が根元まで収まったところで、前戯は終わった。  四つん這いになるように言われ、佑生は素直に従った。体位を変えている僅かな時間で、彼がゴムを装着した。  双丘を両手でつかまれ上向きにされる。ぐっと左右に割られ、まだ残っていた羞恥が湧き出でて、全身がカッと熱くなった。  だって見られている。普通は誰にも見せないような場所を。 「入れるね」  言い終わると同時に、彼の怒張がぐうっと蕾にめり込んでくる。彼のペースに呼吸を合わせ、力を抜いたあとにいきんでみる。すると、太い先端がするっと通過した。  三回目で、挿入がこんなに楽になった。 「あ――ああ」  異物感も一瞬で終わりだ。奥まで挿入を果たした性器はどくどくと脈打っていて、その存在を感じるだけで佑生は酩酊しそうになる。 「気持ちいい?」  聞いてくる声は優しい。でも衝動を抑え込んでいるような、我慢しているような声でもある。 「う、ごいて。気持ち良いから」  促すと、容赦のない律動が始まった。ずちゅ、ぐちゃっと、抜き差しされるたびに卑猥な音が部屋中に響いた。 「あう、ああ……あ!」  声が大きくなるのを止められない。ここはアパートなのに。隣の部屋には住人がいる。  ずんずんと、規則正しく腰を揺すられ、気持ちが良くて堪らない。感じる場所を何度も抉られて、悲鳴のような喘ぎが漏れる。  良すぎておかしくなる。ベッドについていた膝から力が抜けて、上半身が勝手に倒れていく。 「ああもう、色っぽいな」  背後から悠真が覆いかぶさってきて、また腰を振った。昂っている前にも手を這わされ、扱かれる。前と後ろ両方を刺激され、灼熱の快感が襲ってくる。膨れた性器がぶるっと震えた。 「あ、もう」  叫んだ口からは涎が垂れた。体も頭もバカになっていた。  一際強く悠真に腰を打ち付けられ、佑生は絶頂に達した。数秒後、追うようにして悠真のものが内部で弾けた。 「ほんと俺たち、体の相性がいいね」  三回イってふにゃふにゃになった体を、悠真が優しく撫でさすってくれる。本当に恋人にするような態度だ。  勘違いしたくなる甘い自分を、冷静な自分が叱咤する。  ――これが普通なんだよ、悠真にとっては。  特別な相手じゃなくても、誰にでも。 「――遊園地行きたい」  三回もやったらさすがに満足だ。あとは本来の目的を達成したい。  悠真とちょっとはデートっぽいことがしたかった。いつもこの部屋でヤるだけだから。  やっぱり一か月前の花火が、羨ましかった。彩佳と見た花火は綺麗だったろうか。  そんなことを考えたら胸がジクジクと痛んだ。傷跡に砂を刷り込まれたみたいに。 「いいよ、まだ三時だし。行こう」  でもまだ、佑生の体はふにゃふにゃで、悠真に支えられて浴室に向かうのだった。  それから一時間後、コスモランドで二人はいくつかのアトラクションを回った。  ジェットコースター、観覧車、お化け屋敷、どれも楽しかったが、一番一緒に乗れて嬉しかったのは急流すべりのクリフ・ドロップだった。落差十八メートル、最大勾配四十六度の急流を、四人乗りのボートで下るアトラクション。  滑り台を上っていくプロセスも怖いし、落ちる直前ももちろん怖かった。  悠真が前、佑生が後ろに乗った。滑り落ちた瞬間は、我慢しないで叫んでいた。喉を開けて。悠真も大声を出していた。  なぜかというと、そのときこのアトラクションでは絶叫コンテストを行っていたからだ。どれだけ大きい声を出したか競うのだ。  滑り台を落下しきって、ボートが穏やかな波に沿って出口に向かったとき、順番を待つ行列がわっとどよめいた。  ふたりは点数が出る掲示板を見上げた。七百七十八――まさかの一位。 「やった!」  二人は同時に声をあげていた。ランクインしなくても別にいいや、と思っていたのに、いざ一位になったらやっぱり嬉しい。現金なものだ。 「一位、おめでとうございます!」  出口のゲートを出ようとしたときに、係員に景品を手渡された。  キャラクターものの、プラスチックと紙でできた扇子を二つ。  まだまだ暑い九月上旬。ふたりは扇子で顔を扇ぎながら、園内を回った。  ふつうの恋人のようなデートで嬉しかった。例え本当の恋人に一生なれないと分かっていても。
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