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✨1話1Part おかえりなさい、魔王様!
「諦めろ。貴様らはもう既に、勇者軍に包囲されている!!」
「あの世で悔い改めなさい!!」
......普通の日本の高校生だった俺が、魔王として召喚されて約140年。
悪魔やら魔獣やらしかいない世界で、魔王軍を募って、忠実な魔王側近と魔王軍幹部と共に率いて、人間界·ウィズオート皇国に攻め込んだのが2年前。
そこから......四方と皇都、離島地域......群島を攻め落として、取り返されて、側近と共にやられるままに皇城に逃げ込んだ。
しかし、側近の奴は何かにやられてしまい、戦えない俺は壁際に追いやられた。
声高に俺らに対する何かしらの旨を叫んでいる聖槍勇者と聖弓勇者の言葉が、分かるはずなのに何故か分からない。......これ、赤点のテストを見た時と似た感覚だ......懐かし......
そんな険しい顔した異世界の勇者2人が、じりじりと詰め寄ってくるこの光景は魔王である俺としてはめちゃんこ怖い。
「人間界から退却して、魔界で慎ましく暮らすことだな!!」
崩れ落ちた皇城の大広間の壁際に座り込む俺の首のすぐ横に、聖槍の勇者は叫びながら聖槍をグサッと思い切り突き立てる。
ガラガラガラ、という音と共に瓦礫が崩れて、俺は思わず身震いした。......怖い。
はわ......このまま俺、殺されるんだろうな......そう思って目を瞑っていると、耳元から誰かの熱、恐らく聖弓の勇者の体温がほわ......と伝わってきた。
堪らなくなってぎゅっと瞑った目をより一層強く閉じる。
「......さっさと城の上空でポータル陣開いて、逃げなさい」
「......は?」
......どうしてこうなった、俺の異世界ライフ......
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「Alle, beweg dich in die Kampfposition ! !(皆の衆、戦闘配置にきなさい!!)」
「「Herr ! Yesser ! !」」
......下界西暦19432年、下界で数百~数千年ごとに起こる聖邪戦争の、13回目である拾参弦聖邪戦争の幕が降りようとしていた。
Guruooaaaaahhhhhhhhh!!!!
「Kyaaaaaaa ! ?」
巨大な人型の化け物......角が生え、おぞましい爪を持ち、人間の数倍ある巨躯でけたたましい鳴き声を上げた悪魔は、化け物共から逃げ遅れた赤子を抱えた女性に襲いかかった。
背に携えた大きな翼で高く飛んだ悪魔の下には......腰が抜けて動けなくなり、その場でガタガタと震える事しかできない女性が居る。
悪魔の爪から滴る液体は、今自分の頬に当たって小さな雫と化そうとしている血は、こんな事になる前に毎朝優しく声をかけてくれた向かいの家のおばあさんのもの。
「...... ! !」
ぴちゃっ、そんな可愛らしい水の滴る音は気休めになんてならない。
村の皆や逃げる道中で見かけた大量の犠牲者達、見慣れた景色が無惨に崩されていく様が目の前をちらつき、その奥には赤い目をぎらぎらと光らせる化け物。
恐ろしくなって目を瞑り、もはや泣き声すらあげない愛しの我が子をぎゅっと抱きしめた、その時だった。
「...... ?」
爆発音と、それから数秒ほど遅れて聞こえた何がが倒れる音。恐る恐る目を開けると、
「......Es ist schon okay(......もう大丈夫よ)」
「Das...... ?(え......?)」
女性の目の前には鎧を身に纏った少女が仄かに光る弓を手に持ち、その反対側の手をこちらに差し出しながら優しく笑っていた。
「Sie sind, mutige Person......(あなたは、勇者の......)」
「Das stimmt, ich bin ein tapferer Person mit einem heiligen Bogen. Der Rest bleibt der Armee der tapferen Menschen überlassen, Bitte gehen Sie so schnell wie möglich ins Tierheim(その通り、私は聖弓勇者よ。ここは私達勇者軍に任せて、早く避難所に向かって)」
「verstanden. Ah, danke......(分かりました。ああ、ありがとう......)」
歓喜と安堵の涙を一筋流した後、女性は踵を返して急いで走っていった。
そんな女性の背を見送った後、
「Ach du Armer......(可哀想に......)」
少女は......聖弓勇者こと、ジャンヌ·S·セインハルトはそう、呟いた。
「......Muss fertig werden, beruhige dich(......つけないと、決着)」
そして、周りで魔王軍と勇者軍両軍の雑兵同士の戦いが勃発する中、ジャンヌは飛行魔法を用いて颯爽と、ウィズオート皇国中央の皇都·ラグナロクに、
......敵軍の頭である魔王と側近の待つ皇城、ヴェルオルガ城に急いで向かったのだった。
聖邪戦争とは、簡単に言えば、ウィズオート皇国という国が全土を総べる人間界大陸と、特に決まった呼称のない、ウィズオート皇国の東に位置する巨大な魔界大陸のそれぞれに住まう生物同士の大きな戦いの、最終戦の事である。
そして拾参弦というのは、この戦いが13回目である事を示すものだ。
今現在の戦況は、人間側の勇者軍が、魔界の生物である悪魔側の魔王軍をかなり圧倒している状態である。
しかし、
「...... ! !(っ!!)」
「Ew ! !(くっ!!)」
ジャンヌが無惨に崩壊したヴェルオルガ城の中央部に位置する大広間に駆け込むと、そこでは味方である聖槍勇者·ルイーズが青年と戦っていた。
ルイーズが青年の手によって後方に大きく弾かれ、バンッ!!と音を立てて壁にぶち当たった。
ルイーズを弾いた敵は、しとしとと降り注ぐ赤色の月光に照らされて妖美に佇んでいる。
「...... Nun, es wird nur der stärkste Schwertkämpfer der Welt genannt. Gute Fähigkeit(......っ、流石は世界で最も強い剣士と謳われるだけある。腕が立つな)」
「So viel, es ist nicht etwas zu loben.(別に、君達に褒められるようなことではないのだよ)」
流れるような黒髪と深紅の瞳を擁し、すらっとした長い脚、手には闇をそのまま固めたような漆黒の刀を持つその青年は、頭上に立派な1本角が生えていた。
......魔王軍魔王側近、ベルフェゴールとは、角以外人間と何ら変わりないこの青年の事である。
その後ろには、13代目魔王であるマオ·ミドリガオカが目を閉じて腕を組み、仁王立ちしている。
「Belfegor, bitte spielen Sie ohne zu töten(ベルフェゴール、殺さない程度に遊んでやれ)」
「Ich, verstehe......(分かっ、た......)」
「Töte mich nicht ...... ist, Du hast viele Menschen getötet, was sagst du jetzt?(殺さない程度に......って、今まで沢山の人達を殺させてきた癖に、今更何?)」
マオとベルフェゴールの目配せと共に交わされた声による指示に、ジャンヌは声を張りながらずんっと割って入った。
「Es gibt eine Geschichte, die nichts mit dir zu tun hat. Bitte mach dir keine Sorgen(お前らには関係ないような理由しかねえよ。気にすんな)」
「Es ist unmöglich. Weil wir mutige Menschen sind, diejenigen sind, die Menschen beschützen und glücklich machen(無理ね。だって私達は勇者、民を守り民の幸福を成す存在だもの)」
ジャンヌが言い放った大義名分を仁王立ちしたまま聞いていたマオは、何故か今までのお堅い顔をふっと崩して顔を上げた。しかも、
「Groß...... !(ほええ......!)」
「Was?(は?)」
感心したような、驚いたような表情を浮かべて何だか嬉しそうにしているではないか。
これには、真面目に戦おうとしていたジャンヌも思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「Ah, hmm...... (あっ、ん゛ん゛っ......)」
場の空気ががらっと崩れたのを感じ取って、マオは小さく咳払いをする。
「Jeanne, Ich habe die Nachhut es dir überlassen(ジャンヌ、後衛は任せた)」
「OK(分かったわ)」
ルイーズから先程のマオとベルフェゴールのように、目配せと共に声でも合図が下される。
そこから長い長い沈黙が場を包んだ後、ジャンヌはふいと何かを感じ取ってこう呟いた。
「......Kommen Sie, (......来る、)」
須臾の後、ベルフェゴールの持つ刀が、月の光を反射して勇者2人は目をぱっと閉じた。
「...... ! !(っ!!)」
「Was, (な、)」
「Louise ! !(ルイーズ!!)」
そこから瞬も置かずにルイーズの目の前に移動したベルフェゴールは、反射的に後ろに下がっているルイーズに刀をすっと立てる。
それに咄嗟に反応して、ルイーズは黒刀を聖槍の柄で受け止めた。
そこから直ぐさま石突でベルフェゴールの方に突きかかるが、
「......」
「Tsk,」
すっ、とギリギリの所で華麗に躱された上、自ずから後方に大きく下がっていくではないか。
舐められているような真似に、ルイーズはイラついて舌打ちを1つ零した。
「Du kannst nicht in einem Kampf der reinen Kampfkünste gewinnen, oder ! !(純粋な武術勝負じゃ勝てなさそう、だなっ!!)」
そう悟ったルイーズは、遠距離から神気と呼ばれる神の力、魔を打倒すための力で生成した大きな光の槍を3本、轟速でベルフェゴールの方に打ち込んだ。
「Hoppla, (おっと、)」
ベルフェゴールは光の槍を刀で弾き、その直後に聖槍で襲ってきたルイーズの方に斬り掛かる。
キンッ、という音と共に聖槍の切っ先が黒刀の鎬筋を掠めて空を切った。
刹那、
「 ! !」
ジャンヌが神気成形された聖矢を放ち、一瞬反応が遅れたベルフェゴールの左肩の端を射抜いた。
「Louise ist nicht die einzige mutige Person ! !(勇者はルイーズだけじゃないのよ!!)」
「......」
ふらり、と軽く傾いた後に、ベルフェゴールは声高に言うジャンヌの方を見遣る。
直後に、
「......Haa,」
「「......?」」
はあ、とベルフェゴールが弱々しくため息を1つついたのを、ジャンヌとルイーズは見逃さなかった。
しかも、地面に刀を突き立ててどっと膝をついて苦しそうに喘いでいるではないか。
「......Das, bist du in Ordnung ?(ちょっと、あなた大丈夫?)」
「............Was ?(......お?)」
敵ではあるがあまりにも平時とは思えないその様子に、ジャンヌが刀の間合いに入らないギリギリの場所まで駆け寄って心配そうに声をかけた。
その様子を見ていたマオは、勇者の敵味方関係なく心配する温情溢れる姿勢にちょっとした感心から思わず声を上げる。
が、
「......Es ist nichts, worüber sich der Feind Sorgen macht...... coff,(......別に、敵に鬼胎されるようなことでは......けほっ、)」
そう言いながら咳込むベルフェゴールの横を、勇者2人は素通りしてマオの元に歩き寄ってきた。
「......Hmm ......Selbst wenn Sie die Kranken besiegen, wird es nicht ordentlich sein. Louise, beeilen wir uns und holen uns nur den Hals des Dämonenkönigs und beenden(............んー......病人を倒しても何かすきっとしないわね。ルイーズ、さっさと魔王倒して終わらせましょ)」
「Genau(そうだな)」
「Eh, hey(え、ちょっ)」
2人とも武器を構えて寄ってくるので、マオは困惑して焦り始める。
聖弓に神気を滾らせて真剣な表情を浮かべるジャンヌがフリーズしてしまっているマオの耳元に、そっと顔を近づけてきた。マオは思わず目を瞑り、固唾を飲んだ。
しかし、マオが想像しているような言葉は、ジャンヌの口から発せられなかった。
「Bitte bewegen Sie sich nicht einmal einen Schritt von der Stelle(その場から1歩も動かないでちょうだい)」
「Ist ......(は......)」
想定の斜め上を行く発言に、マオは思わず目を見開いた。
─────────────To Be Continued────────────
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