あの子の胸は大きかった

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あの子がいなくなったのは、暑い夏の夜のことだった。 あの子が暮らしていた街はごみ溜めのような場所で、男はチンピラ、女は娼婦。子供達はいつでも何かに飢えた顔をして、お互いの足を引っ張りあっていた。 あの子は透けるように白い肌、柔らかい輪郭で、育つにつれて両親はとても喜んだ。いい売り物になる子供だと。 あの子が客を取り始めると、たちまち噂は広がって、毎日のように客足は途絶えなかった。 僕もあの子の客だった。 隣の隣のそのまた隣の僕の街まで広がってきた噂を確かめに、普段なら近づくこともない汚れた建物に足を運ぶ。 母親とおぼしき太った薄汚い女が、僕の服と靴を見て、厭らしく笑いながら値段を告げた。 豪華でも清潔でもない部屋の真ん中に、あの子は静かに座っていた。 滑らかな、白い肌、その中でもひときわ柔らかく光るような胸、それが内側から光るようにぼうっと揺れて、僕は吸い寄せられるようにその豊満な胸に顔を埋めた。 柔らかく温かく穏やかな心拍を聞きながら、僕はたちまち眠りに落ちる。 生まれ変わったような良い夢から目覚めたとき、僕は金目のものを全てひっぺがされた状態で、街の外の草むらに投げ捨てられていた。 それでも誰を訴えるという気にもならず、上等の服と靴を身につけて、僕は再三あの子のもとに通った。 何度目かの訪問で、あの子は私に静かに聞いた。 腕の良い、お医者様を教えてほしい、と。 僕は激しいショックを受けた。この柔らかな暖かな布団のような少女が、医者が必要な状態とは知らなかった。 病気ではない、とあの子は即座に否定した。 何も聞かず、腕のいいお医者様を紹介してほしい、そうすれば私はあなたに感謝するから、と。 それで僕はそうした。 僕の人脈で知る中で、一番腕が良く、一番機械のような、あの子に興味を持たなさそうな男を。 そしてそれから3ヶ月後、あの子はいなくなった。 文字通り、忽然と姿を消した。 貧しい街は大騒ぎになり、そしてしばらくして静かになった。 あの子に何が起きたかを頑なに話そうとしなかった医者に、僕は業を煮やし、捕まえてじっくりと話を聞いた。 最初は何をされても黙っていた医者も、僕が彼の商売道具である指を切断しようとしたところ、やむを得ずといったように自白した。 「手術をしたんだ」 「彼女の一番の商売道具を取り外して、どこにでもいるようなつまらない人間にする手術を」 「だからあんたらは彼女を見つけられなくなったんだろう。案外まだあの街にいるかもしれない」 「死んでるか生きてるか知らないが、あんたの知ってるあの子はとにかくもういない」 そして医者は、面白くもなさそうに呟いた。 「あの子の胸は大きかったよ」
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