人ごみ

ソレに気がついた時

　それ以来、人ごみに紛れている得体の知れないものと関わらないように注意している。あ、いるなと思ったら、まず見ない。目を逸らす。そして近づかない。それで大体は回避できる。
　あっちに気がつかれたらとにかく逃げる。そして、水と塩。お守りとかお札とか色々試したけど、水と塩は手っ取り早くて一番効果があった。トイレに駆け込んで、塩をなめて、ひたすら手を洗う。とにかく気がすむまで塩を舐めて手を洗う。すると大抵は寄ってこなくなる。多分、清めの効果があると思う。

　一度、振り切れなかった事があって、その時は交通事故にあった。幸い全治２週間の打撲くらいですんだけど。まともに当たっていたら跳ね飛ばされて大怪我だっただろうって。
　ついてきた何かから逃げている時に、横断歩道で足止めをくらった。信号が変わるのを待っていと、走っている車に向かって強く腕を引かれたんだよね。私の後ろにいた人が救急車を呼んでくれて。その時の話によると「信号待ちしていたら、突然、グッと腕が持ち上がって。持ち上がったかと思ったら、何かに引っ張られるように車道によろけた。操り人形みたいだった」って。当たり屋じゃないかって疑いをかけられたりして、怪我もしたのに散々だった。

　でも人間の形を取っているのは良くも悪くもまだ人間に近いように感じる。ヤバイのは、人間の形すら維持できないもの。この前は失敗した福笑いみたいなのを見た。脂肪のようなブニョっとした塊に、目や口がてんでバラバラについてる。鼻なんか２つついてて。人間って、本来あるべき所にあるべきものがないと、とてつもなく恐怖を感じるんだなって思った。
　こういうのは見た目が怖いというだけでない。多分、かつて人間だったものが集まってできているんじゃないかと思う。ヤンキーも、１人では大したことできなくても、何人か集まるとタチが悪くなるってあるじゃないですか。あんな感じ。この世にしがみついていたい何かが集まってる。こういうのに関わると最悪。具合は悪くなるし……運気まで悪くなる。