人ごみが嫌いなワケ

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人ごみが嫌いなワケ

 私は人ごみが嫌いだ。  まぁ、人ごみが好きって人の方が少ないと思うけど、世間一般とは違う理由がある。だっていろんなものが紛れてるから。  いろんなもの。つまり異形。異形の言葉通り、私たちとは違う形をしたもの。完全に私の理解を超えた存在だ。  よく怪談なんかで出てくる黒い靄のようなこともあれば、ケモノのような場合もある。どう見ても生きている人間にしか見えないこともある。どうして「違う」ってわかるかというと、やっぱりどこか人の行動とは違うんだな。人ごみの中でじーっと動かなかったり。お面みたいに薄ら笑いを貼り付けてたり。真夏にダウン着てるのに汗ひとつかいていないとか。  人ごみに紛れる異形に気がついたのは子供の頃。夏だったと覚えている。家族でキャラクターショーに行ったんだけど、そこで変なモノを見た。  私は3、4歳で、自分より背の高い子供に囲まれて、ステージを見るのに一生懸命だった。変なモノに気がついたのはステージ右手から悪役が登場した時だ。悪役が出てきた通路に、大きな女の人が立っていた。子供の記憶だけど、3メートルはあったと思う。首を右に折り曲げたまま、目だけ動かしてステージから客席を見ていた。何かを探している感じだった。首は直角に曲がっていて、完全に肩についている。最初はソレも悪役の一人だと思った。でもすぐに違うとわかった。誰も、騒がないのだ。周囲の子供達はステージ上の悪役に注目していて、誰もステージ横の大女のことなど見ていない。  今思い出してもぞっとするけど、ありえない角度だった。それに気がついてからはステージどころじゃなくなって……怖いもの見たさっていうんじゃなくて、怖いからこそ目が離せないっていう感じ。目が離せなくてずーっと見てたら、その女と目が合っちゃった。そりゃそうだよね。あっちはステージから客席を見てるんだから。あっ、と思った。見つかったと思った。  でも、大丈夫だと思ってた。だって、ステージ前にはびっしり子供が座ってる。来れやしない。それに、親と一緒にいれば大丈夫だ。そう思うって、振り返って後方にいる親を探した。  ふと……背中が冷たくなった。同時にガッと、右の足首を掴まれる。振り向くと、さっきの女が立っていた。どうやって移動したのかはわからない。私の背後に立っていて、首を右に曲げたまま、目だけ動かして高い位置から私を見下ろしていた。私の足を掴んでいたのは女の足だった。いや。本来足があるべきところにある手だった。逆立ちでもしているように、足の部分が手になっていて、私の足をつかんでいたのだ。  そこからどうしたのか、よく覚えていない。親によると、急に私が大泣きして、収拾がつかなくなったので、会場から出たそうだ。  大人になってその時の事を親に確認したんだけど、怖いテレビ番組や本の記憶と、キャラクターショーの悪役が怖かった記憶をまぜこぜにしてしまったんじゃないかと。子供によくある妄想じゃないかと。今も信じてもらえない。でも、確かに首の曲がった大女はいた。生ぬるい、湿った手のひら。食い込んだ爪の感触。女の手の感触は今でも生々しく思い出せるから。 efb0974e-3f32-4638-938d-1a1695a02164
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