3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
水と塩とそして
東京で暮らしていると、人にぶつからないで人ごみを歩くのは、まずできない。どんなに気をつけていても必ずぶつかる。ぶつかった人が「何か」を連れていたら、ぶつかった瞬間に私がもらってしまう。
私は霊能力者とかじゃなくて、見えるだけなんで、ソレを祓ったり、消したりすることはできない。
じゃあ、どうするのか?
水と塩で離れてくれればラッキーなんだけど、離れてくれない時は……誰かに移すしか手はない。
ソレに目をつけられて、どうしても振り切れない時。わざと人ごみに飛び込む事がある。用もないのに延々と通りを歩いたり、ショッピングモールに入ることもある。そうこうしているうちに、ソレは、ソレの都合のいい、私以外の誰かに取りつく。それこそ誰かとぶつかったりしたら、ソレは離れる。離れて、その場所に落ちたり、ぶつかった誰かにくっついて行く。名前も知らない「誰か」を餌に逃げ切るのだ。
誰かにぶつからずに歩くなんてまず不可能だ。タチの悪いものに出くわす、拾ったり、捨てたりする。人ごみは、二重の意味で嫌な場所なのだ。 了
最初のコメントを投稿しよう!