それはまるで水のような

1/2
前へ
/2ページ
次へ
特徴的な、鐘のようなメロディがホールに広がる。 柔らかな女性のアナウンスが、学校名と曲名、指揮者名を告げる。 ざわめいていた会場がさあっと静まり、冷たい水のような緊張感の中に沈む。その見えない緊張感の中、指揮者が振り下ろす棒に導かれて音楽が始まる。 明るく、昏く、賑やかに、静かに、激しく、穏やかに、美しく。 何ヶ月にもわたって掘り出し、磨き上げ、形にしてきた7分間を、それを何倍にも増幅させるホールで。 だから私は、コンクールのステージが好きだ。 毎年、200を越える学校、団体がこの場所で競い合う。 もちろん、競い合うとはいっても物理的な争いがあるわけではないし、一人一人にメダルが渡ったり、表彰式があったりするわけでもない。 それでも、ステージの上で感じる、そこだけで感じられる空気が、私の努力を認めてくれる気がするから。 一昨年は、ステージの裏に設置されている小さなモニターで、同じくステージに乗ることが出来なかった仲間達と祈るようにして聴き入った。 真横でステージメンバーの努力を見ていただけに、あまりにもあっさりと流された銀賞のアナウンスに、涙が止まらなかった。 去年は、初めての舞台に舞い上がる気持ちを抑えながら、先輩達の音に必死で合わせて吹ききった。 一年半夢見ていた『ゴールド金賞』に歓喜の叫びを上げたのも束の間、地区代表には選ばれず、嬉しいような悲しいような、ぐちゃぐちゃな気持ちで涙を吞んだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加