第4章 複雑な想い

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(彩香) 土曜日の夕食時 「彩香、明日圭子さんと温泉に行くんだけど、一緒に行く?」 「えっどうしようかな?奈緒も連れて行っていい?」 「多分大丈夫よ。小野さん家は、夫婦だけだから」 「勝利は行かないんだ。それだったら行ってもいいかな。」 勝利が居たら奈緒が行かなければ行かないつもりだったが、居ないのであれば温泉には行きたい。 奈緒にLINEする。 (明日、温泉行かない?小野家夫婦とうちの母付きだけど) するとすぐにLINEが帰ってくる。 (ごめんね。明日は妹と約束があって・・・) (了解) そっか奈緒行けないんだ。 でも勝利が居ないんだったらいいよね? ろ自問自答する。 「奈緒は行けないみたいだから、私一人で行こうかな?」 「ところで勉強はいいの?」 「えっ!誘っといて、それを言うの?」 「いくら内申だけで合格出来るからって先生に言われても、内申で通らなかったら、他の高校に受験するんでしょ?」 「うん。でも大丈夫だって先生が言ってるんだから、大丈夫でしょ」 「まあそれならいいんだけどね。」 「パパは今日も遅いの?」 「何だかゴルフの練習をしてから帰って来るみたいよ。」 「そうなんだ、精神科医って暇なのかな。ドラマで出てくる医者は、凄く忙しいのに?」 「そんなに忙しかったら、パパはすぐに辞めちゃうわ」 「確かに」 と言って、二人で笑った。 そして翌日 勝利の両親の車で温泉に向かった。 「旦那は今日も仕事かい?」 と勝利パパが母に聞いてきた。母は苦笑いを浮かべながら 「ええ、そうなんです」 と答える。 うちのパパは、朝早くにゴルフに行った事は言わない。 「医者は休みが無くて大変だね?」 母は同じ様に 「ええ」 と返事をする。 「そうか、男は俺一人だな。でも社長も行こうかなと言っていたから電話してみようかな?」 「電話って、高速道路に乗ってるのよ」 「分かってるって、そこの大井パーキングで電話するよ。」 とパーキングに入り、一旦車を停めて電話を掛ける。 「社長、今日は温泉行かないんですか?」 やけにフレンドリーな会話だな 「えっベイブリッジ?大黒パーキング? じゃあ今から行きますよ。 10分前後でそっちに行けると思います」 車を走らせながら 「社長達は、大黒パーキングにいるっていうから、これから大黒パーキングに出発します。」 すると勝利ママが 「おう!」 と大きな声で言った。 相変わらず仲が良い夫婦だと感じる。 勝利ママが「ねえ、今社長達って言った?」 「うん。娘も一緒に来てるみたいだよ」 「あらら、じゃあ勝利も連れて来れば良かったわね」 ? もしかしてキャンプの子? よし、今日はその子に勝利から手を離すように説得しよう! 奈緒のために 車は大黒パーキングに着いて、4人は車から降りて社長がいる展望台へ向かう。 展望台に向かう階段の下に着くと勝利ママが走り出した、私達もそれを追う様に走り出す。 階段を登り終え私達は止まったが、勝利ママはそのまま走り続けて、社長の娘に飛びついた。 ? その行動に呆気にとられたが、その社長の娘を見て 綺麗な子・・あれ? 涙ぐんでる? 私も引き寄せられる様に、その子に近づき、挨拶をした。 「初めまして、一条彩香です。よろしくね」 と手を差し出す。 すると手を重ねて、潤んだ目をしながら 「私は結城莉乃(ユウキリノ)です。こちらこそよろしくね、」 と握手した。 すると勝利ママが姉妹みたいなどと言って、私達を茶化した。 再度車に戻って、目的地へ向かう。 あれはズルいわ。 いきなり、あんな潤んだ瞳で話して来たら、悪い事を言えないわ。 でも奈緒のためだから頑張らないと 車は高速を出て、目的地の湯楽に着いた。 早速お昼まで温泉に入る事になったのだが、母達は二人で楽しそうに温泉に向かった。 必然的に社長の娘と二人で脱衣所に入った。 彼女は恥ずかしそうに服を脱ぎ、浴室に入って行く。 私も服を脱ぎ浴室に入ると、洗い場に彼女がいるのを見つけ、横に座った。 まずは情報収集だ! 「結城さんってスタイルいいね。何かスポーツやってるの?」 「ううん。スポーツは苦手なんだ。部活も文科系の吹奏楽をやってるの あっそれと莉乃でいいよ、苗字で呼ばれると、何かくすぐったい感じ」 もっと大人しいイメージだったが、意外と親めやすいかも。そんなインスピレーションを感じた。 「うん、分かった。じゃあ私も彩香って呼んで」 「うん」 そして二人で内風呂に入る。 とにかく情報収集しなくちゃ 「莉乃ちゃんはパート何?私も吹奏楽でフルート吹いているんだ。」 「私もフルートよ。一緒だね」 よし、吹奏楽ね。 私は探偵にでもなった気分だった。 次は場所を変えて情報を聞き出そう。 「ねえ露天風呂に行く?」 露天風呂に入ると、あまりの開放感から 「はあ~」と息を吐く。 すると横でも 「はあ~」と同じく息を吐く声が聞こえて二人は目が合い笑った。 何かこの子いいかも 「莉乃は何処に住んでるの?」 「御茶ノ水だよ」 「学校は?」 「池女の中等部だよ」 あれ?私が行く高校の中等部だ。 「え~じゃあ来年は同じ学校かも知れない。私、池女の高等部を受験するんだ。」 「そうなんだ。じゃあ一緒になるかも知れないね。 よろしくね」 ヤバイヤバイ、このままだと身の上話で終わってしまいそうだ。 さて本題に入ろう 「キャンプで勝利と仲良くなった子って、莉乃ちゃんなの?」 「なんで?」 「勝利のお父さんが社長に電話しようと言っていたから、確かキャンプも会社で行ったと言っていたような記憶があって」 「そうか、確かに勝利とキャンプで仲良くなったのは私よ」 「そうだったんだ、莉乃ちゃんなら納得。綺麗だし優しそうだもんね」 さて、本題に入るわよ しかしその時、勝利ママが 「そろそろ出るわよ」 と声を掛けてきた。 え〜これからなのに 莉乃が湯舟から出ようとした。 私は慌てて、湯舟から出ようとしている莉乃に 「勝利と付き合うの?」 「ううん。それは無いわ」 と答えて浴室を出て行った。 ? そして女子4人は待ち合わせ場所の食堂前に向かい食事を済ませる。 すると、母達はエステに向かった。 私達は海が見渡せるリクライニングチェアーに座って、のんびりと海を眺めていた。 とりあえず中途半端な状態で終わった、この状態を直さなければ 「さっきはごめんね。気を悪くしちゃった?」 「えっ何が?勝利の事なら平気だよ。本当に付き合わないから」 ! あまりにも平然と話すので違和感を感じる。 皆んなが言ってた様に、勝利は遊ばれているの? でも初めて会った時から、莉乃がそんな子では無いと思っていたのだが 「何で?嫌いなの?」 「嫌いでは無いんだけど、男と付き合う気が無いだけなんだ」 ? それって女性が好きって事?だから女子校? 何と返せばいいんだろう? とりあえず同調してみよう! 「実は私も男に興味が持てないの。 これって異常なのかなって思ってたけど、同じ気持ちの人がいて良かった。」 すると慌てた様子で 「いや、そういう意味では無いのよ」 「そういう意味?」 莉乃は顔を赤らめて 「私はノーマルだから。友達として、同性は好きだけど、愛する事は無いわよ」 墓穴を掘ってしまった! 私も苦笑いを浮かべながら 「私だってノーマルよ。ただ同年代の男性に興味が無いだけよ。」 はあ〜焦った。何か変な汗が出てきた。 とりあえずもう一度サッパリしたい気分になり 「そろそろ、もう一度お風呂に行こうか?」 「うん」 お風呂場に向かっていると、男性が落としたキーケースを拾おうとして腰を屈めている莉乃の姿を見ていると ! あれ?手が震えてる キーケースを男性に渡す。 震えが酷くなっている。 男性の声掛けに 「いいえ」 と答えるが、微妙に声も震えている。 莉乃はその場にしゃがみ込んだ。 「莉乃ちゃん、それって男性恐怖症?」 莉乃が頷く 震えて蹲っている莉乃に手を貸して、近くにあった長椅子に座る。 私は手を添えて、緊張感を解す。 徐々に震えが収まってきた。 「もう大丈夫。彩香ちゃん、お風呂行こう」 と無理しているのが分かったが、お風呂に入って気分を落ち着かせた方が良いと思い、莉乃の言葉に同意して風呂場に入った。 今回は、最初から露天風呂に入る。 「やっぱり、せっかく温泉に来たんだから、露天風呂の方がいいよね」 無理に明るくしている気がしてならない。 「これで分かったでしょ? 私は勝利と付き合わないのでは無くて、付き合えないのが」 ! 私は涙が出て来た。 そして、この子に何てひどい事をしようとしていたのかと思うと、よけい涙が止まらない。 「あっごめんね。 そんな泣かないで、 ごめんね。」 莉乃のごめんねと言われるたびに首を横に振る。 「莉乃ちゃん、ごめんね。 それって苦しいよね。 ごめんね、色々聞いちゃって、嫌だったよね」 すると涙を出しながら莉乃が話し掛けてきた 「ありがとう。」 露天風呂で二人の中学生が泣いているのを、周りが不思議そうに見ている。 それに気づいた私は 「体でも洗おうか? 洗いっこしよう」 と言って、莉乃の手を掴んで洗い場に向かった。 「莉乃ちゃん、そこ座って、私が背中洗ってあげる」 そして莉乃の背中を洗っていると、線が細くきめ細かい莉乃の肌を見て きれい と素直に感じた。 莉乃が話し始める。 「そういえば昨日、奈緒ちゃんに会ったわよ。 凄い可愛い子だったよ」 ! 「えっ奈緒に会ったの?」 「うん。勝利の知り合いを見ておきたかったって言ってたわよ。」 「奈緒が一人で行ったの?」 「うん。凄く緊張していたわ」 奈緒が一人でそんな大胆な行動取るなんて信じられない。 それほど勝利の事を・・・ でも莉乃ちゃんもいい子だし、どっちを応援したらいいんだろう? すると 「それで昨日ね、帰り間際に私と勝利の事を応援するって奈緒ちゃんが言ってくれたんだけど、応援しなくていいと、奈緒ちゃんに伝えてもらっていいかな?」 「奈緒がそんな事を」 「うん。私が男性恐怖症と知ったからだと思うんだけど、それってただの哀れみだと思うの。 だから奈緒ちゃんは奈緒ちゃんのためだけに頑張ってと伝えて欲しいんだ」 「莉乃ちゃん、それって・・・」 「彩香ちゃんも今私を哀れんだでしょ? そんな事言ったら重病を患っている人が、誰でも好きな人と恋愛出来ちゃうでしょ? それっておかしいよ。 病気だからと哀れまれるのは、患者にとって失礼な事なのよ」 この子・・・ それが莉乃の言う哀れみなのかも知れないが、毅然と話す、このか細い体を守りたい一心で後ろから抱きついていた。 「だから、私はノーマルだってば!!」
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