第6章 覚悟

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1月1日(元旦) 祐輔達と別れて、神社に祈祷してからおみくじを引いて、短い初詣を終えて神社から家に帰る道を歩き始める。 毎年元旦は、家族だけで過ごして、2日に親戚の家に行ったり、ウチに親戚が来たりするのが、一条家の正月だった。 しかし 父「今日は江古田病院の院長家族と夕食を食べに行く事になってるんだ。」 母も聞いていなかったらしく、 「えっ?元旦に?」 「うん。江古田君が、今日しか空いてないらしいんだ。」 「でも何処に行くの?ウチは嫌よ、片付けて無いから」 「うん。江古田君の行きつけの寿司屋が、特別に開けてくれるみたいなんだよ」 「わざわざ元旦に会う必要があるの?」 「元旦は、家族が確実に揃う日だし、それにめでたい日だからな」 私は余り行く気がしないので 「私は先に帰っていい?」 すると父が慌てて 「ダメだよ。家族全員で会う約束しているんだから」 ? 余り拘束しない父が、珍しい。 そんな父の態度に不信感を抱いた母が 「何か隠してる?」 「いや何も隠してないよ。江古田君とは、病院間も患者の連携もしているし、ゴルフも、いや会議も一緒によく行く仲だから」 「まあいいわ、でも今度は事前に言ってよ!」 「じゃあタクシーで行っちゃおうか?」 「えっこの格好で行くの?」 「大丈夫だよ。充分綺麗だから」 と完全に父の口車に乗ってしまっている。 私達はタクシーに乗り、父達が待ち合わせしている寿司屋に着いた。 店屋は閉店の看板が下げてあったが、父はお構い無しに店に入っていく。 私と母も父の後を追って店に入った。 「いらっしゃい。奥の座敷で待ってるよ」 父が 「ありがとう」 と言って、店の奥にある座敷に向かった。 店の奥に部屋が3室あって、両端の2つは障子がしまっているので、真ん中の部屋に父の友人が居るのだろう。 部屋の前に着いて、靴を脱ぎ部屋の障子を父が開けた。 すると中には大きなテーブルがあって、真ん中に父の友人が居て、左に妻であろう女性が居て、右側に私と同じくらいの年の男の子がテーブルより向こう側に、こっちの方に向かって座っている。 私達も必然的に同じ様に座る。 私の前には息子だろう男の子が座っている。 かなり痩せていて、メガネをかけていて、髪は7:3分けの、いかにもおぼっちゃまと言った感じの男の子だった。 昆虫に例えるとカマキリみたいな男だ。 私達が座ると、店の人が料理を運び始める。 それにしても前の男は何者?ずっと私を見てニヤニヤしている。 気持ち悪い 父の乾杯の音頭で会食が始まった。 私は目の前にある食事を食べ始めた。 「彩香さん料理美味しいですか?」 えっ 名前も伝えて無いのに、いきなり名前を呼ばれてビックリした。 「うん。美味しいよ」 と愛想笑いを浮かべて、返答した。 「でも良かった。来てくれないと思いました。」 ? 何言ってるの? 「父に前から頼んでいたんです。彩香さんと食事がしたいって」 ! えっ! 「そうなんだ」 と、今度は無愛想に返事をする。 何となく魂胆が見えて来た。 この男が父親に頼んで、ウチの父が承諾したのね。 それで私が帰ろうとした時に、慌てていた父の行動が理解できた。 私は席を立ち、母の所に行き、母の耳元に顔を近づけて、小声で話し掛ける。 「ママ、私帰るね。お年玉があるから自分でタクシーで帰るから大丈夫だから」 すると母が私の耳元に顔を寄せて、同じ様に小声で 「後でタクシー代、返すから。トイレに行くとか言って、帰って良いわよ」 このまま帰ると母が責められてしまいそうだったので、一度席に戻る。 取り敢えず食べ終わったら帰ろう と思い、食事を食べ始めた。 「彩香さんは、何処の高校に行くの?」 私が回答を無視してると、父が 「池岡女学園だろ。緊張して忘れちゃったか?」 お酒を飲んでいるせいか、妙にハイテンションの父が代わりに答えた。 ふう 「緊張しないでいいよ。」 アンタ何者? 取り敢えず食べる。 「僕も食事中に喋る女性は好きではないから、僕達気が合いそうだね」 どこまでポジティブな奴 大体食べ終わり、お茶を飲む。 さあて帰ろう! その時 「彩香さんは、彼氏いるの?」 何でアンタにそんな事を答えなくては行けないの?でも、ここで釘を刺しておこうと考えた 「うん。いるよ。」 ビックリした表情をしたところで 「ちょっとトイレに行ってくる」 と言って席を立つ。 私はそのまま早足で店を出た。 店を出た私は、この場から離れようと走った。 店が見えなくなった所で、タクシーを拾い、家に帰った。 まったく何考えてるのよ! 家に着いた私は、お風呂に入り、イライラしながら、リビングで正月のお笑い特番を見て、嫌な事を忘れようとしていた。 そして父達が帰って来た。 父は顔を真っ赤にして、私の所に近づいてくる。 酒くさっ! 「何で先に帰ったんだ。真人君が悲しんでたぞ!」 「あれは何なの?お見合いでもさせる気?」 「彼はかなり優秀な子なんだ。ああいう子と結婚すれば、お前も幸せになれるだろう!」 「いくら勉強が出来ても、私は嫌よ!」 「ところでお前、誰と付き合ってるんだ!パパは聞いてないぞ!」 酔っ払ってるのか本心なのか分からない。 この時は、私も頭に血が登っていたので、父に反発した。 「そんな恋愛の事を父に報告する訳ないでしょう!」 「だから、誰なんだ!」 「祐輔よ!大野祐輔。これでいい?」 「そんなのパパが認める訳が無いだろう!そんな子より真人君の方がお前を幸せに出来るのは確実だ!」 母が口を挟む 「祐輔君だって、優秀なのよ。稲川実業に野球推薦で入ったんだから」 「野球推薦で高校に入る子なんて、ごまんといるだろう」 私は冷静さを失って 「祐輔はその中でも特別な選手よ。」 「じゃあ、甲子園で優勝できる程の選手で、プロ野球選手にでもなれるのか?」 「なれるわ!」 「なれなかったら?」 「そうしたら、別れるわ!それでいいでしょ!」 私は自分の部屋に駆け込んだ。 本当にこの日は、冷静さを欠き、思い切った行動にでた。 携帯を取り出し、祐輔のところに電話をかけていた。 「今すぐ、会いたいよ」
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