第6章 覚悟

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(祐輔) 自分の部屋でTVを見ていると携帯が鳴る。 誰だこんな時間に、どうせ耕太だろ 携帯の画面を確認する 彩香! すぐに電話に出た 「どうした、こんな時間に」 「今すぐ会いたいよ」 ! 彩香がこんな事を言うのは、到底信じられない。 何かは分からないが、余程重要な事なんだろう 「分かった、これからお前のマンションの下まで行く」 電話を切る。 部屋着のスウェットにクローゼットにあるジャンバーを取り出して羽織り、部屋を出て行く。 玄関に行く途中 母「祐輔何処行くの?」 「ちょっと」 と言って玄関を出た。 エレベーターがちょうど10階を通り過ぎたため、階段で走って降りて、彩香の住むマンションまで走った。 マンションのエントランス入口が見えて来た。 ! 既に彩香が立っているのが見える。 更にスピードを上げて彩香の所へ走った。 彩香との距離が近くなると、彩香がこっちに向かって走って来る。 僕は止まり、飛び込んでくる彩香を受け止めた。 彩香は、胸の中で叫ぶように泣き始める。 こんな彩香を見るのは初めてで、戸惑ってしまった僕は、彼女を包み込む様に抱いた。 彼女が泣き止むまで しばらく泣くと段々と落ち着いて来たのが、抱く腕の感触と吐息で分かる。 彩香が埋めていた顔を離し、俺を見つめる。 「ごめんね。取り乱しちゃった。」 「うん。相当な」 「ちょっとあそこに座ろう」 とエントランス入口横にあるベンチに歩き出す。 「ああ」 と言って彩香の後に続いてベンチまで歩きベンチに座った。 彩香が俺達と別れてから起こった事を話し始める。 何だそんな事か 「彩香、そんな事で悩むな」 「そんな事って!」 「俺が甲子園で優勝するようなチームのエースで、そしてプロ野球選手になればいいんだろう? 全国で注目されて、ドラフト1位で指名されれば親父さんだって文句は無いだろう」 不安そうな顔をして 「そうだけど・・・」 「親父さんが言う様に、俺がそれぐらいにならないと、そいつと結婚した方が、幸せになれると思ってるんだろ? だったら、親父さんも認める選手になってやる。」 彩香の表情が曇った顔から笑顔になり、俺の顔を下から覗き込む様にして、話し掛けてくる。 「付き合っても無いのに?」 ! 完全に忘れていた。 もう恋人気分になってしまっていた。 「祐輔の気持ちはどうなの?私の気持ちは伝わったと思うけど」 ここで言うのか? 「今の話で、もう分かっただろ」 「ちゃんと想いを聞かせて? 言えないなら私が先に想いをきちんと伝えるね。」 彩香が息を整えて告白しようとするのが分かった。 それはさすがに男として言わせる訳にはいかない。 彩香が告白し始める。 「私は祐輔の・・・」 慌てて、彩香の口に右手を当てて、喋らせない様にしながら 「俺から先に言わせろ」 彩香が頷く。 彩香の口を塞いでいた手を離して 「彩香の事が好きだ。 俺と付き合ってくれ」 もう分かっていただろうけど、彩香の目には涙が溢れ流れ出す 「私も祐輔が好き 私と付き合って下さい。」 ! 「おい、俺が先に告白したんだから、そこは「はい」とか「いいえ」だろ?」 「だって、自分の気持ちを伝えたかったんだもん。」 彩香は泣きながら真剣な顔をして 「私、祐輔を信じるから、絶対に二人で幸せになろうね。」 と言って、俺の胸に飛び込んで来た。 座りながらだけど、さっきと同じ体勢になる。 彩香の頭が目の前にあり、さっきは感じなかった、シャンプーのいい香りがする。 彩香の肩を抱きながら、彩香に聞こえる様に 「絶対に離さない。」 と彩香に誓った。 その言葉に彩香の俺に抱きついている手の力が強くなった。 「それにしても、勝利の夢を言っている様だな」 「勝利の母とウチの母は仲が良いから、たまに勝利の夢の話が会話に出るのよ」 「そういう事か。まったく勝利の夢にも困ったもんだ」 「本当だね」 そしてしばらくしてから、互いに温もりを感じながら、別れたのであった。 祐輔にとって、自分の想いだけでは無く、二人の為に野球というスポーツに取り組む事になった瞬間であった。
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