第6章 覚悟

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1月8日(始業式) 新たな年で迎える学校生活の始まりである。 たった15日の冬休みで、大きな変化があった。 彩香ちゃんと祐輔が付き合った事だ。 いきなり2日の朝LINEで (彩香と付き合った。俺達は絶対に結婚する。) などと、中学生が言う内容では無い文章が送られてきた。 いきなり結婚って? 多分、初詣で彩香母が言った言葉を真に受けているのだろう。 ただ、僕達の関係はいつもと変わらず、3人で登下校を繰り返す毎日であった。 そして1月14日 授業が終わり帰ろうとした時に奈緒が話し掛けてきた。 「勝利、今日文房具屋に付き合ってよ」 「耕太と祐輔もいいか?」 「今日は出来たら勝利に来て欲しいんだけど」 「何で?」 「前に買い物の途中に置いてきぼりにした埋め合わせをしてもらおうと思ってるんだけど」 「何だよそれ」 「お年玉入ったんだから、鉛筆の1本や2本買ってくれてもいいでしょ!」 まあ鉛筆なら安いからいいか 「分かったよ。そのかわり絶対に鉛筆だけだからな!」 「うん。じゃあ校門で待ってるよ」 と言って教室を出て行った。 耕太に黙って行くと、変に疑われるから言いづらい 耕太と祐輔が教室に入ってきた。 耕太「今日はグラウンドで練習しようぜ!」 「あっごめん。今日は用事があったの忘れてた。 だから先に帰るよ。」 耕太「例の莉乃ちゃんか?」 「まあそんなとこだよ」 と言って、走って教室を出て行った。 なんか罪悪感を感じた。 校門に奈緒が待っていたので、そのまま駅前にある文房具店を目指して歩き出した。 「コンビニの鉛筆ではダメなのかよ?」 「ダメ!可愛くないもん」 まあいいか 歩きながら、 「ところで、どの高校行くんだよ?都立高か?」 「だから内緒よ。」 以前、祐輔の言葉が引っかかっていたので聞いてみる 「お前さあ、心城学園に推薦が来たのに、断ったのは俺と耕太のせいか?」 「う〜ん。確かにそうかも知れないわ」 まさか本当にそうだったのか! 「何かごめん。」 と謝った。 「別に謝ることでは無いよ。だって私は高校でやりたい事があるんだもん。」 「何やりたんだよ」 文房具店が見えてきた。 「ほら、行くわよ!」 と言って、答えを言わずに文房具店に走って行った。 僕は歩いて文房具店に入ると、奈緒は鉛筆売場で商品を眺めている。 奈緒が見ている場所は、受験鉛筆と書かれたエリアで、頑張れ!や、もう一息!等の一言が書かれた鉛筆だ。 「決まったか?」 「う〜ん。どっちにしようか迷ってるの」 「2つだろ?」 「ううん3つになっちゃった。」 「じゃあいいよ。3つ買ってやるよ」 「本当!ありがとう」 と言って、奈緒が3本の鉛筆を持ってレジに行く。 レジ打ちをしている女性に 「袋はいいです。」 と言って鞄に入れようとしていた。 何の言葉の鉛筆を買ったのか聞こうとしたら、店員が「324円になります。」 と僕に言ってきた。 1本100円もするのか! 渋々財布から500円玉を差し出した。 良かった、お金が足りた。 そしてお釣りを貰い、奈緒の方を向くと 満面の笑みを浮かべる奈緒を見て、一瞬「ドキッ」としてしまい、1本100円もした鉛筆を選んだ事に、文句を言おうとしたが、すっかり忘れてしまっていた。 「ところで何て書いてある鉛筆買ったんだよ?」 「え〜じゃあ2本だけ見せてあげる。 あっ!あそこの喫茶店に寄ろうか? あそこのパフェうまいんだよ。 しょうがないからパフェは私が奢ってあげる」 駅前の大通りから一本裏の道にある小さな喫茶店に奈緒が入って行く。 喫茶店の入口横には、外の客に分かるように、小ウィンドウにメニューが並んでいる。 パフェやスパゲティ、ピラフなどの作り物の品物が飾られていて、フルーツパフェは、600円と書かれたプレートが前に置いてあった。 フルーツパフェって高いんだな と普段男同士では頼まないパフェの値段に驚いた。 パフェの値段に驚きながら、先に店へ入った奈緒の後に続く。 席に座ると、すぐに水を持って、ウェイトレスがテーブルに運んできた。 すると奈緒が 「フルーツパフェ2つ下さい」 ! 「お前、1個600円だぞ!」 「ウチは親戚が多いから、お年玉が沢山入ったから」 「じゃあ鉛筆だって自分で買えるだろ!」 「それはそれ、これはこれよ」 「何だそりゃ? それより何て書いてある鉛筆買ったんだよ」 「えっ知りたい?」 「別に」 「じゃあ見せない」 「ちょっと知りたい」 「本当に勝利は素直じゃないんだから。 じゃあ2本だけ見せてあげる。」 と言って、鞄を開けて鉛筆を取り出した。 鉛筆には (合格) (頑張れ!) と書かれていた。 「そうだよな、奈緒は受験生だもんな。 でっ、都立は試験いつだっけ?」 「明日よ」 「えっ都立はまだ先だろ?」 「だから、明日の私立の試験に行くのよ」 奈緒は都立高校だと思っていたので、意外だった。 「明日って?お前こんな事してていいのかよ?」 「今更、勉強したって、変わらないよ」 すると、店員がフルーツパフェを2つテーブルに運んできた。 うまそう! 「勝利はフルーツ好きだもんね。」 「それと、このパフェのお金は、俺が払うからな。 ただ今はお金を持ってないから、後で払うよ」 実は今日の財布の中は500円しか入っていなかったので、今の状況では精一杯の見栄だった。 「じゃあ今度奢ってよ。私がお金が無い時に誘うから」 「しょうがない。そういう事にしてやる」 何故か、奈緒は笑みを浮かべる。 「どう?美味しい?」 「うん。マジでうまい」 「良かった」 と微笑んだ。 そして、パフェを食べ終えて、店を出た。しばらく歩き、奈緒のマンション前まで送り 「じゃあ、明日頑張れよ!」 とエールを送り別れたのであった。 奈緒が1200円出したのに、300円の鉛筆を選んだ奈緒に文句を言おうとしていた自分が、つくづく小ちゃい男だと認識したのであった。
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