第6章 覚悟

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1月22日 今日は私立高校の結果発表という事もあって、午前授業で授業も自習となっていた。 午前11時、携帯に着信がある。 先生も居ないし、そーっと電話に出ると、奈緒の声が聞こえてきた。 「勝利!受かったよ。心城学園に受かったよ!」 心城学園? 「お前、心城学園の推薦は蹴っただろ?」 「うん。だから吹奏楽は、やらないよ」 ? クラスみんなの視線が痛い。 「後で掛ける。」 と言って電話を切った。 そして午前中の授業が終わり耕太と祐輔が僕の教室にやってきた。 そして二人に奈緒の事を伝える。 「奈緒から電話があって、心城学園に合格したって」 耕太がビックリして 「えっ!奈緒は心城学園の推薦を蹴ったんだろ?」 僕と同じ反応をした。 「俺もそう言ったんだよ。そうしたら、高校では吹奏楽をやらないんだって言ってた」 耕太「それで何やるんだよ?」 「さっきは、そこで電話切っちゃったから知らないよ」 耕太「何で聞かないんだよ!」 「そんな事言ったって授業中だったから、しょうがないだろ。 耕太が電話しろよ」 すると耕太が、態度を一変して 「勝利、頼むよ」 「分かったよ。でも外に出てからな」 そして3人は、殆ど居なくなった教室を出た。階段を降りて下駄箱で靴に履き替えて外に出る。 今日は1、2年が午後も授業があるため、学校でキャッチボールも出来ないので、外に出た僕達は、校門を出てそのまま家に向かって歩きはじまた。 校門を出ると、携帯を取り出し奈緒に電話を掛けた。 着信音はなっているのだが、電話に出ない。 耕太も祐輔も僕の事を熱い眼差しで見つめてる。 電車かな? 「何?」 声が聞こえたのと同時に耕太と祐輔が驚きの声を上げる。 「わあ!」 声の先に奈緒と彩香の姿があった。 耕太「何だよ。いるなら電話しろよ。」 奈緒「だって、勝利が後で電話するって言ってたんだもん」 何か嫌な予感がした。 耕太「やっぱり勝利が犯人かあ!」 何が犯人? まあいいか 「はいはい、僕が犯人ですよ」 耕太が僕を見つめ、奈緒に聞けと言わんばかりに目で合図を送る。 「奈緒、お前高校でやりたい事って何だよ?」 「知りたい?」 鉛筆を購入した時も同じやり取りをしたが、今回は耕太をダシにして答える。 「耕太が教えて欲しいんだって」 してやったり、と思っていたが、耕太が物凄い形相で僕を見ている。 やばい! 「嘘だよ。俺が知りたいんだよ」 奈緒は勝ち誇った顔をして、 「じゃあ教えてあげよう! 私は野球部のマネージャーになる事にしたんだ。」 「えっ!だってお前、野球知らないだろ?」 「うん。これから覚える」 奈緒が野球部のマネージャーになるのなら、耕太も喜んでいるのだろうと、耕太を見た。 ? 耕太は、喜んでいる雰囲気ではなく、逆に落ち込んでいるように見えた。 すると祐輔が話を変えた。 「彩香は、大丈夫だった?」 彩香は事前に内申で合格を先生から伝えられていたので、今日は取り敢えず合格の確認をしに学校へ行っていた。 「うん。合格してたよ」 これで5人の高校が決まり、 後2ヶ月の中学校生活を送るだけとなった。 (耕太) 結局5人で家に帰った。 奈緒・・・ そこまで勝利の事が好きなんだ。 はあ〜 溜息が止まらない。 家について、自分の部屋に入る。 あ〜あ! とベッドに飛び込んだ。 すると祐輔から着信が入った。 電話に出る。 「どうした祐輔。お前から電話なんて珍しいな」 「大丈夫か?」 「何が?」 「とぼけるなよ」 いつもの吐き捨てるような言い方では無く、やけに優しい言い方だった。 その言い方は、かえって心に突き刺さった。 「まさか祐輔に、恋愛の事で心配される日がくるとは思わなかったよ。 だけど、あんまり大丈夫では無いかな」 「そうか」 「えっそれだけ?何かいい事を言って、慰めるとか無いの?」 「それは無い。何となく気持ちは分かるけど、気持ちの深さまでは分からないから、慰める事なんて出来ない。 ただ、耕太は馬鹿だから」 ? 何故そこで止める? 「馬鹿だからの先は?」 「男なんて、ちょっとでも気になる子は、みんな好きなんだよ。 ただ、どのタイミングで1番好きになり、どのタイミングでその想いが無限に積もっていくのか分からない。 ただ積もり始めた想いは、止まらない。 その想いをリセット出来るのは、諦める事しか出来ない。 想いを積もらせる事は簡単だけど、その積もった想いが強ければ強いほど諦める時の苦しみが強くなる。 耕太は、その苦しみに耐えれるのか?」 祐輔は、たまに鋭い事を言ってくる。 「俺は前から奈緒の事が好きだったけど、勝利の事が好きだと分かっていたから、何とか想いを積もらない様にセーブ出来ていたが、夏休みに勝利が恋をしてから、俺は欲が出てしまい、心のセーブ出来なくなった。 それからは今までの想いが次から次へと溢れ出して止まらない。 奈緒の勝利への想いは1mmも変わらないのに、奈緒がとった行動に憤りを感じてしまう。 自分勝手で最低だよ俺は」 「元々耕太は、最低なんだから、しょうがないだろ。 でも、そんな耕太も俺は好きだ。 カッコいい恋愛では無いが、耕太も奈緒を好きになった時に覚悟していたんじゃあ無いのか?」 確かに祐輔が言う通り、実らない恋だと覚悟をしていた。 でも、好きを止めれなかった。どうしても奈緒が好きだったんだ。 「うん、そうだな。覚悟はしてた。 ただ、俺バカだから、どうしても諦められないんだ。 最低と言われても、俺は奈緒が俺の事を見てくれる日が来るまで、この想いを積もらせて行くよ。」 「本当に馬鹿だな。」 奈緒の勝利への想いは、測りきれないほど強い、もし勝利への想いを諦めなくてはならない時が来た時は、想像もつかない苦しみが襲うだろう。 その時は俺が奈緒を全力で支えよう。 いつか前を向く時がくる日まで、俺が奈緒を支えてみせる。 それでも他に想いが行くのなら、全力で応援しよう。 今の俺は、奈緒への想いは止められない。でもいつか、この想いが満たされる事を信じて、俺は頑張ろう。 「祐輔ありがとうな。少しスッキリしたよ」 「卒業式、告るのか?」 「まだ分からない。」 「そうか、ゆっくり考えるんだな」
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