第7章 片想い

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2月13日 2月22日に行われる都立高校入試に向けて、午前中授業が続いているが、僕達5人組は全員都立学校入試とは無縁であり、それぞれが残り少ない学校生活をエンジョイする筈なのだが、男3人は今日も公園で練習をしていた。 本来、冬は体力作りに重点を置いて練習メニューを組むのだが、硬球にもっと慣れなくてはいけない僕達は、充分身体を温めてからキャッチボールや投球練習、ノック、トスバッティングを行う。 今日も身体を温め終わり、投球練習を行っていた。 祐輔が投球練習を行っている所を、祐輔の横で眺めている。 相変わらず綺麗なフォームで文句の付けようが無い。 しかし、祐輔は首を振りながら 「何か足りないんだよなあ。勝利、何が足りないのかなあ?」 「えっ!完璧なフォームで見とれてたんだけど。 もし何かと思うなら、余りにも綺麗なフォームだから、逆にタイミングが取りやすいとか?」 取ってつけた様なコメントを言うと 「そうか、それかもな。」 僕達が話していると、キャッチャーの耕太が僕達の元に走って来た。 「どうした?」 「祐輔が、何か足りないと言って来たから考えていたんだよ」 「そうだったのか、祐輔は綺麗なフォームだけど、確かに打者への威圧感みたいなものがあれば、もっといいとは思ってたけど。」 「スピードは、どう思う?」 「勿論、速いよ。」 「全国一の投手になれるか?」 「そう言われると、もう一つ何かが必要に思えてくるな」 そうだ!僕達は全国一を目指しているんだ。 今を満足していてはいけない、もっともっと進化し続けないと! 耕太が冗談で、 「野茂見たいなトルネード投法なんて、威圧感もスピードも増す様な気がするけど、実際はどうだか分からないな」 すると祐輔が 「それだ!トルネードだ!耕太、その投げ方教えてくれ!」 祐輔が見よう見まねでトルネード投法をしている所を耕太が腰の入れ方、腕と背筋の使い方をレクチャーする。 そして、急造のトルネードが完成した。 「取り敢えず、キャッチボールをやってみてくれ。」 と耕太が祐輔に言う。 僕は、さっき耕太がボールを受けていた場所に行き、立ったまま祐輔のボールを受けた。 まずは軽く、投球フォームを確認しながら、キャチボールを始める。 しばらくして、徐々に力を入れていく。 普通のグローブでは、手に響くので耕太のキャッチャーミットを借りて、祐輔の球を受けた。 しばらく受けていると、 「勝利、全力で行くぞ!」 まだ全力では無かったのか! 「OK!いいよ」 祐輔の背中がこっちに向いていて、左足が前に踏み込むと腰が回転して、その力が反った身体に、背筋を通して腕に伝わり手から放たれる。 球に力が乗り移った様な、豪速球がこっちに向かって来た。 ズボッ! 明らかに今までよりも速いし、伸びがある。 そして何とも言えない威圧感が伝わった。 僕はまるで自分の事の様に喜んだ。 「祐輔、凄いよ。本当に凄いよ。やったな!」 すると耕太が近づいてきて、 「俺にも取らせろよ」 とミットを構える。 そして祐輔が、もう一球投げると 「祐輔、完璧だ。」 と僕も耕太も祐輔の元に向かった。 耕太「球は遥かに良くなった。でもこの球を自在に操れなければ、宝の持ち腐れになるからな。 そのフォームでの変化球、そして何よりもコントロールが、絶対条件だ。 そして、足腰、背筋、肩の強化が必要になる。 それでもいいのか?」 「当たり前だ!全国一になるんだから」 ? 喜んでる場合ではない。 「俺も全国一になるんだぞ!」 耕太「そうだった、そうだった。 じゃあ勝利もトルネードやってみるか?」 適当に言ってやがる! 元々腰の回転が命のアンダースローなので、理論上はトルネードは最適なのだが、オーバースローみたいに背筋を通して球に伝える事が出来るのだろうか? 「ちょっとやってみようかな」 耕太「マジで?」 お前が言ったのに 「うん。ちょっと見てよ」 祐輔と同じ様に投球フォームをチェックする。 足を踏み出す時の身体の使い方が難しい。 でも、いけそうな感じがする。 今度は祐輔が僕の球を受けてくれる事になった。 まずは軽く投げ続けて耕太の細かいアドバイスを聞きながら調整していく。 徐々に力を入れていく。 「祐輔、全力で行くぞ!」 「おう」 全力で投げ込むと、ミットの音がいつもと違う音を鳴らした。 ズボッ! さっきと同じ様に耕太が祐輔と変わりミットを構える。 そしてもう一球全力で投げ込む。 ズボッ 耕太と祐輔が僕の所に集まった。 耕太「球は遥かに速く、重くなった。 ただ、今の投球フォームを見ていて思ったんだが、コントロールは大丈夫か?」 鋭い、投げるのが精一杯でコントロールまで気がまわらない、低めのコントロールまで調整出来るか不安だ。 それに腰の負担が思った以上にのし掛かってくる。 「う〜ん。分からない」 祐輔「マスターしろよ!全国一になれないぞ!」 確かに、マスター出来れば、全国一の投手争いには参戦できそうな感じがする。 かなり至難の山だな 「頑張ってマスターするよ」 この瞬間、後に全国を沸かすだろう、オーバースローとアンダースローのトルネードが誕生した。 耕太「じゃあ明日から土台の基礎作りとフォームのチェックだな、忙しくなるぞ! お前達、大丈夫か?」 まるで新しいゲームをクリアするワクワク感で、新たな難関を迎える気分だった。 多分祐輔も同じ想いだったのだろう、二人して 「当たり前だ!」 と強い意志で言った。 そして、日も暮れ初めたので、練習を終えてベンチで一休みしていると、携帯が鳴った。 莉乃からのLINEだ。 (今、彩香ちゃん家にいるの、上を見て) 僕は彩香ちゃんの家を見上げた。 あっ!莉乃だ 莉乃が手を振っているのが見えた。 僕も莉乃に見えるように大きく手を振る。 祐輔「何してんだ?」 「莉乃が彩香ちゃん家にいるんだよ」 耕太「あの手を振っている子?」 「うん」 祐輔「思ったより大人っぽい子だな」 「うん」 耕太「さっきから「うん」しか言わないで、もしかして緊張しているのか?」 「うん」 祐輔「マジか!」 「直に顔を見たのはクリスマス以来だから」 耕太「今年初顔合わせか?」 「うん」 耕太「よくそれで付き合ってられるな?」 「まだ付き合ってないよ」 祐輔「そうなのか?」 「うん。莉乃が病気を克服するまで、付き合うのは嫌みたいなんだよ」 祐輔「それは色んな意味で、周りに影響するな」 ? 「えっ!何で?」 耕太「勝利には一生分からないよ。なっ祐輔?」 祐輔「そうだな。勝利には分からないよ」 ? 本当に何を言っているのか分からない。 祐輔「あっLINEだ」 と言って祐輔が携帯を見る。 祐輔「3人とも彩香の家に来ないかって、聞いてるぞ」
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