第7章 片想い

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(耕太) 祐輔と勝利は、彩香の家に向かおうとA棟に歩き出す。 奈緒に会いたくない。 正確に言うと、勝利の事を見る奈緒の姿を見たくない。 勝利「耕太どうしたの?行こうよ!」 「あ〜今行くよ」 どうしても行く気がしない。 勝利と祐輔に着いて行くが、足取りが重い。 勝利「耕太遅いぞ! 奈緒もいるぞ」 と笑顔で言う。 まったく人の気も知れず、呑気なもんだ。 そして、A棟のエントランスを過ぎてエレベーターに乗った。 15階で降りて彩香の家の玄関のドアを開けると、甘い匂いが嗅覚を襲った。 そうかチョコレートかあ。 そういえば明日はバレンタインだっけ。 彩香が出てきて 「いらっしゃい。これからチョコレートフォンデュをやるから、一緒に食べようよ。」 祐輔「あんまり甘いのは好きじゃない」 彩香「もう祐輔は、乗りが悪いんだから。 いいから、とにかく入って」 勝利も彩香の事が好きだった時は、こんな会話にも嫉妬心を感じていたのかなあ? でも彩香の話を聞き、チョコレート好きな俺は、テンションが上がった。 そして、靴を脱ぎ家に入る。リビングに着くと、チョコレートの匂いで部屋が充満していて、窓を開けたくなる。 奈緒「もう、遅いよ!」 と、テーブル中央に置いてある、チョコレートフォンデュの機械の前で座って、僕達に言った。 奈緒もチョコレートが大好きなので、待ちきれないのだろうと感じた。 奈緒の姿を見て、さっきまでの気持ちが柔らぐ。 テーブルの上には、チョコレートフォンデュの機械を中心に、マシュマロやバナナ、イチゴ、ビスケットなどが置いてあった。 あれ? そういえば勝利の好きな莉乃ちゃんは? 確か男性恐怖症って、言ってたけど・・・ 勝利はテーブルを通り過ぎて、奥の部屋に彩香ママと一緒に消えていった。 彩香「莉乃ちゃんと美希ちゃんは、奥の部屋にいるから、先に食べてていいって」 テーブルに俺と祐輔、奈緒、彩香が座り、チョコレートフォンデュを食べ始めた。 奈緒「美味しい!」 と早速奈緒は、マシュマロに溶けたチョコレートをいっぱいつけて、口に入れた。 奈緒「耕太も食べなよ。チョコレート大好きでしょ」 奈緒が俺の好みを知っていてくれた事で、更にテンションが上がった。 彩香も祐輔も食べ始める。 俺もバナナにチョコをつけて口に運ぶ 「美味い!」 奈緒「そうでしょ。美味いでしょ」 既にビスケットにチョコをつけて2個目を食べた奈緒が言った。 ! 奈緒の口元にチョコが付いている。 「おい奈緒、右の口元にチョコが付いてるぞ!」 奈緒がチョコが付いてない左の口元を触る。 「だから、右だよ」 すぐに右口元のチョコを舌で拭き取るように取った。 「本当だ。でも美味しい!」 その屈託もない笑顔に、心が癒される。 そしてそれと同時に、感情が込み上げてきているのが分かった。 いくつか食べたり、話していくうちに、その感情が膨らんでくる。 そして奈緒が質問してくる 奈緒「耕太って、女子にモテるけど、耕太は誰が好きなの?」 この質問で膨らんできた感情は爆発した。 卒業式までは、言わないでおこうと思っていた感情が 「奈緒だよ。」 「えっ?」 「俺は前からお前が好きだ!」 「えっ?」 答えは分かっていた。 奈緒の口が開きかけた時 「奈緒、ちょっと待ってくれ! その答えは今は言わないでくれ。 3年後にその答えを言ってくれないか? 頼む」 ちょっと情けないけど、気持ちを伝えれた。 奈緒「・・・」 「3年後に俺から、告るから、その時は思いっきり振ってくれ! 今の俺には、奈緒の答えを聞いたらダメになりそうなんだ。 自分で言っておきながら、勝手な事を言ってごめん。 俺、高校で勝利と奈緒と野球出来るのが、楽しみなんだ。 だから、ごめんな ちょっとだけ、夢を見させてくれ」 自分の勝利への想いと重なったからなのか、奈緒の頬に涙が伝う。 そして 「分かった」 と小さい声で言った。 場の雰囲気が一気に下がる。 俺は気持ちを切り替えて 串にバナナを2個刺して、チョコをいっぱいつけて口に運んだ。 口の中がバナナでいっぱいになって 「お・いし・い」 と口ごもって言うと 奈緒の表情も変わり 「耕太、1串に一つしか刺しちゃあいけないんだからね。と言ってビスケットを両手に一つづつ持って、チョコをつけて、2ついっぺんに口に入れる。 美味しいと言おうと思ったのだろうが、最初の「お」を言った時にビスケットの粉が口から噴き出した。 「奈緒汚ねえぞ!」 そしていつもの様に、4人で笑った。
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