第8章 決意

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公立学校の入試も終わり、クラスの雰囲気も張りつめた雰囲気は消えて、卒業式に向けて穏やかな雰囲気に変わっていく。 3月19日の卒業式まで1週間 明後日は、ホワイトデーがあるが、莉乃と会うのは難しい。 バレンタインから、週一のペースで彩香ちゃんの家に行っているので、密かにマンションの出入りを遠くから眺める事しか出来なかった。 ただ、その眺める姿は、ストーカーと勘違いされてもおかしくない。 今日の3月12日も彩香ちゃんの家に来る日だ。 いつもの様に、公園の木陰に隠れて莉乃が来るのを待った。ただいつもと違うのは、耕太と祐輔が近くに居ない事だった。 二人共、今日は野球部に寄っている。僕は野球部に行くのをパスして公園に来ていた。 あれ? 今日は遅いな? 昨日のLINEでは15:00ぐらいに来る事になっているんだけど? すでに15:00は過ぎている。 おかしいなあ? 僕は公園の木陰から離れ、マンションの前に歩いて行った。 「君!」 後ろから声がする。 慌てて振り向くと、警察官が怖い顔をして立っていた。 「こんなところで何してるんだね?」 「えっ知り合いを待っているんですけど・・」 「あんな木陰に隠れてかね?」 「あっあれは色々事情があって、姿を見られない様にしていたんです。」 完全にストーカーだと思われている。 「まあいい。詳しくは署で聞くから、パトカーに乗って」 マンションの前の道路にパトカーが止まっていた。 頭がパニックになる。 僕はその場で 「本当にただ待っているだけです。 まだ待ち合わせしている子が来てないから、来てからでいいですか?」 「その子は、女性か?」 「はい」 「どういう関係だ」 「え〜と、恋人では無いんですけど、恋人みたいな子です。」 ヤバイ、これでは不審すぎる。 でも、どう言ったらいいんだろう? すると莉乃がやって来た。 僕が警察官に尋問されている所を見て、僕の所に駆け寄って来てくれた。 僕は警察官に分かってもらいたかったので、莉乃に話し掛ける。 「莉乃、木陰で莉乃が来るのを隠れて見てたら、不審者だと思われて、尋問されているんだ」 警察官が莉乃に話し掛ける。 「君はこの男性と知り合いか?」 莉乃は震えながら 「は・・い」 警察官は震える莉乃を見て、異常に気付く。 そして、案の定、僕が疑われた。 「彼女が震えてるだろ! とにかく、そこまで来なさい!」 と強い口調で僕にパトカーまで行く様に指示をした。 ダメだ。これ以上、莉乃に話させるのは危険だ。 「分かりました。今いきます。」 僕は震えている莉乃に 「莉乃、ごめんね。僕は大丈夫だから、彩香ママの所に行っていいよ」 と言って、道路に停めてあるパトカーまで10mぐらいの距離を、警察官と共に歩き出した。 (莉乃) パトカーに向かって警察官と共に歩く勝利の後姿を見て 過去の記憶が蘇る。 お母さん・・・ 涙が頬を伝う。 「ダメ!」 と警察官に向かって大きな声で呼び止める。 私は警察官と勝利の所へ走りながら 「この人を、勝利を連れて行かないで!」 と泣きながら勝利の背中に抱きつく。 警察官も混乱している様子だった。 「ごめんなさい。私の大事な人なんです。連れて行かないで!」 と再度、警察官に向かって大きな声で訴える。 そこへ彩香ママがやってきた。 「あら、莉乃ちゃんと勝利君じゃない。 莉乃ちゃん遅れちゃってごめんね。待った?」 と莉乃に言った後に、警察官の方を向き 警察官を僕達二人から遠ざけて、警察官に事情を話している。 震える手で勝利の背中から抱きついたまま 「勝利、行っちゃあヤダ!私をおいて行かないで!」 母が出て行った時の過去と重なる。 母が出て行ったあの日、私は母にこうして立ち止まって欲しかったのかも知れない。 抱きついている私の手の上から勝利の手が重なり 「僕は絶対に莉乃をおいて行かないよ」 「勝利・・・」 徐々に震えが収まってきて、勝利の手の温もりを感じながら止まった。 彩香ママが、警察を納得させて戻ってきた。 「莉乃ちゃん、おめでとう。多分これで良くなるわ」 今の私は、長年の間、胸の奥に詰まっていた物が取れた解放感を感じていて、彩香ママの言葉を素直に受け止められた。 彩香ママ「過去の振り返りは必要無くなったと思うわ、もう少しだけカウンセリングをして終了よ」 と笑顔で言った。 私は笑顔で 「はい」 と答え、抱きついていた勝利の手を離した。 そして勝利を見つめ 「行ってくるね。もう少しだから待っててね」 と始めて勝利に待っててねと伝えて、彩香の家に入って行った。 私は希望の光が確実に見えた。 今度こそ大丈夫!
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