第9章 卒業

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(奈緒) 卒業式で合唱を歌ってから、様々な中学校生活の事を思い出し、涙が止まらない。 この体育館も吹奏楽での思い出が多く、涙を増加させる要因にもなっていた。 そして卒業式が終わり、少し涙も収まってきていたが、教室に入り勝利の顔を見ると、止まっていた涙がまた止まらなくなってしまった。 この教室で横に勝利が居る。 そんな楽しい時間が終わると思うと涙が止まらない。 席に座っても涙を流し続ける。 すると勝利がティッシュを私に差し出す。 勝利が高校に合格した時の事を思い出す。 もう涙が止まらない。 先生が来て話した言葉も、殆ど頭には入らず、いつの間にか最後のホームルームは終わっていた。 そして中庭から校門まで下級生達に見送られるイベントが中学校での最後の、本当に最後のイベントだった。 最後のホームルームが遅くなっているクラスもあり、全員が揃ったクラスから順に歩き始める。 担任の号令で、私達のクラスも2列になって歩き始めた。僅か100mも無い距離を歩くだけのイベントだったが、中学校生活はこれで終わる事になる。 私は勝利と一緒に見送られたかった。 そう考えると、私は勝利を探し勝利の横に行く。 そして、勝利の右手に私の左手を重ねる。 勝利は恥ずかしがり、繋いだ手を離そうとしたが、泣きながらお願いすると、手を繋ぐ事を受け入れてくれた。 勝利の右手から私の左手に、勝利の温かさが伝わってくる。 下級生達が、意味は違うだろうが 「おめでとう!」 と祝福してくれている。 まるで結婚式の新郎新婦に向けて、声を掛けてくれているようだ。 幸せ 本当に幸せを感じる。 するとますます涙が流れてくる。 でも、校門までにしよう。 勝利には莉乃ちゃんがいるのだから。 あ〜あと5、6歩で校門だ。 そして最後の一歩 私は立ち止まる。 「おい、どうした奈緒。」 「出たくないなあ」 「馬鹿!それじゃあ甲子園にも行けないだろう。一緒に行くぞ!」 ! 嬉しかった。 一緒に行くと言う言葉が何より嬉しかった。 「うん。行こう甲子園」 と言って校門を越えた。 「あれ?電話だ」 と勝利が校門を出た瞬間、携帯を取り出した。 「あっ莉乃だ」 と言って電話で話し始めた。 あ〜あ、これが現実か と肩を落とす ! 私の肩を誰かが叩く。 私は振り返ると、彩香、耕太、祐輔の姿があった。 私は3人を見た瞬間、またまた涙が湧き出てきてしまった。 さっきまでの涙とは明らかに違う 届かぬ想いの切なさによる涙だった。 彩香が私を強く抱きしめてくれると、彩香の体に思いっ切り抱きつき、声を出して泣いてしまった。 しばらく彩香の体を借りて、思いっ切り泣き終えると、不思議な程に気分が落ち着いてきた。 電話をかけ終わった勝利が、私達の元に走って来た。 「これから、莉乃ちゃんの所に会いに行ってくるな」 耕太「お前なあ・・」 と文句を言いそうになったので、私は耕太を止めた。 私は3人に 「勝利だから!」 すると3人も笑い出す。 祐輔「まあ、勝利だからな」 と言うと3人が、再度爆笑し始めた。 何の事だかよく分からない勝利は 「何なんだよ!」 すると彩香が 「勝利には言っても分からないわよ。 そんな勝利だから許されるんだからね!」 と怒った口調で言ったが、勝利には何の事だか分からない様子だった。 そして5人で、中学校最後の思い出を残すために写真を撮った。 写真を撮り終わると、勝利が 「これから莉乃の所に行ってくる」 と言って、走って帰って行ってしまった。 私は 「勝利だから」 と言うと皆んなも 「勝利だから」 と言って笑ったのであった。 中学校生活が終了した。
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