第9章 卒業

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莉乃からLINEでは無くて、直接電話が掛かって来た。 ちょうど卒業式で、校門を出た後の着信なので、堂々と携帯を出して電話に出た。 電話口から莉乃の声が聞こえる 「もしもし、勝利?」 本当に本当に莉乃の声だ 「もしもし、そうだよ」 「やったー。声が震えない。」 「治ったの?」 「まだ完全では無いみたいだけど、勝利と会っても大丈夫じゃないかって、彩香ママが言ってくれたの」 心の底から熱いものが湧き上がる。 「本当に?」 「うん。本当よ」 あれ? 「ねえ、勝利。これから会えない?今日は卒業式なんでしょ。 私がお祝いしてあげる。」 「うん。行こう。 何処でも行くから・・・」 えっ? 涙が溢れて来た。 「どうしたの勝利?」 嬉しい、心の奥底で感じていた絶望というものが消えていく。 その絶望が消えて涙に変わったのだろう。 「う・ううん。な・何でもないよ」 「勝利、なんか声が震えてるよ。どうしたの?」 僕は涙を素手で拭う 「あまりにも嬉しすぎて、泣いちゃった」 「もう、勝利は・・・」 言いかけて止まった。 えっ!もしかして 「どうしたの?莉乃、大丈夫?」 「もう、勝利のウィルスは強力なんだから。感染して私まで涙が出ちゃったでしょ」 早く会いたい 「今卒業式終わったから、もう少ししたら帰れるよ。何処で待ち合わせする?」 「そうね。クリスマスをやり直したいな。今度はちゃんと向かい合って」 「あれ?卒業祝いでは無いの?」 「もう、ムードが無いんだから。そうよお互いの卒業祝いよ」 あっそうだった。莉乃も中等部を卒業したんだっけ。 「分かった。また出るときに連絡するね」 電話を切ると、再度学校へ戻った。 校門を過ぎると、4人の姿が見えたので、報告する。 「これから、莉乃ちゃんの所に会いに行ってくるな」 耕太が怒った顔をして、何かを言いかけたが、奈緒が 「勝利だから!」 何故か3人が笑い出す。 今度は祐輔が 「まあ、勝利だからな」 と言うと3人が爆笑し始めた。 ? 「何なんだよ!」 すると彩香が 「勝利には言っても分からないわよ。 そんな勝利だから許されるんだからね!」 と、何故か怒った口調で言われたが、 ? 結局、訳が分からなかったが、皆んな笑顔だったので、中学校の5人が過ごした場所を見つけて写真を撮りまくった。 結局30分ぐらいいただろうか わあ、ヤバイ。そろそろ行かないと 僕は皆んなに 「これから莉乃の所に行ってくる」 と言って、一旦着替えるためマンションに走った。 家に戻り私服に着替えると、LINEで (今から家を出るね) と送る。 (分かった。気をつけてね) とLINEが届いた。 よし、行くぞ! 僕はクリスマスで莉乃からもらった手袋をはめて家を出た。 やっと会える嬉しさから、駅に着くまで莉乃と何を話そうか考える。 莉乃はクリスマスの約束覚えてるかな? 二人でこの手袋をつけて手を繋いで歩く約束を もし忘れてても、来年の冬もあるから大丈夫か 等と、あまり物事を考えるのは苦手な僕だが、今は何を考えても楽しい。 駅に着いて3分後の電車をホームで待つが、たった3分がえらく長い。 まだかな やっと電車が駅のホームに入って来る。 電車に乗って御茶ノ水を目指す。 そしてとうとう御茶ノ水駅に着いて、クリスマスと同じ様に、聖橋口改札を出た。 クリスマスの時は不安で一杯だったが、今日は違う。 頭の中は不安など一切無く、会える事だけが頭を独占していた。 が クリスマスで会った聖橋の入口で莉乃を待っているが、なかなか来ない。 きっと、オシャレに時間が掛かっているんだろう。 と、その時は軽く考えていた。 ピーポーピーポーと救急車が2、300m先で止まった。 川沿いの道で、木が邪魔でよく見えない。 まさか、莉乃では無いよな そんな、ドラマじゃあるまいし ・・・・ ダメだ! 僕は救急車に向かって走り始めた。 救急車に女性が運ばれている。 運ばれている女の子の顔は見えないが、僕と同じ手袋をつけていた。 この手袋って、確か莉乃の手編み・・・ 僕は救急車の所に着いた。 救急隊に 「すいません。彼女と待ち合わせしていた者です。」 すると莉乃の名前を聞かれた。 救急隊「親と連絡できますか?」 「はい」 以前に莉乃の家の電話番号を聞いていたので、家に電話を掛ける。 誰も出ない。 そうか今日は平日だったんだ。 仕方ない 僕は父に電話をして、社長から僕の携帯に電話する様に頼んだ。 救急隊「君が病院まで付き添ってくれるか?」 「はい」 そして救急車は意識を失った莉乃と僕を乗せて、すぐ近くにある大学病院に向かって走り出した。 救急車の中で、一緒に後部に乗っている救急隊員に話し掛ける。 「すいません。彼女はどうしたんでしょうか?」 「道端で急に倒れたらしい。」 「急に?」 「今は分かっているには、それだけで何で倒れたのかは、医者に聞かないと分からない。」 そんな馬鹿な そんな事ってあるのかよ! 僕は莉乃の手袋をつけている右手を、両手に手袋をつけている僕の手で、祈る様に掴んだ。 神様、お願いだから莉乃を苦しめないで下さい。 お願いだから・・・
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