第9章 卒業

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大学病院に着いて、莉乃はそのまま診察室に入って行った。 救急の待合で待っていると、莉乃の父親から着信が入る。 電話で今までの経緯を話す。道端で倒れていた事、大学病院に運ばれて来たことを伝えた。 そして、診察室から医師が出て来た。 「お父さんと連絡がつきましたか?」 「はい」 「熱が40℃近くあるので、このまま入院になります。 お父さんが来たら、病棟に来るように言って下さい。」 「はい」 その後、看護師が来て、入院する病棟を教えてくれた。 取り敢えず、莉乃の父親父が来るまでこの場所で待つ事にした。 何でこんな事に そんな事を考えながら1時間が経過した。 すると莉乃の父親が息を切らして、やって来た。 「莉乃は?」 「救急病棟に入院しましたので、案内します。」 「ありがとう」 先程、看護師が教えてくれた場所へ移動して、救命救急センターと書かれた場所に着いた。 病棟入口にあるインターホンを鳴らすと、 「はい救命センターです。」 「今入院した、結城の父ですが」 「はい、ではお父さんだけお入り下さい。」 僕は入れないのか! 莉乃の父親だけが、自動ドアから病棟に入って行く。病棟に入れない僕は、莉乃の父親が出て来るまで、病棟前の椅子に座って、莉乃の父親が出て来るのを待った。 ・・・ どれだけ待ったのだろうか、待つ時間が長くなればなる程、嫌な予感が積み重なっていく。 どうしたんだろう? すると救急病棟の自動ドアが開いた。 険しい顔をした莉乃の父親が出て来た。 あまりにも険しい表情なので、声を掛けづらい。 莉乃の父親が僕に気付き、声を掛けてくれた。 「あっ勝利君。車で来てるから、家まで送るよ」 「ありがとうございます。でも大丈夫ですか?」 「あ〜大丈夫だよ。本人は寝てるし、この病院は家からも近いから、後でまた病院に行くから」 と言って、先に歩き出した。 僕は後を追いついていくが、言葉は喋らず黙々と駐車場に向かって歩いていく。 そして車まで着いて、僕は助手席に座った。 車を走らせ駐車場を出ると、莉乃の病気を伝えられた。 「勝利君。驚かないで聞いてくれ。 これから精密検査をするが、医師が言うには「急性リンパ性白血病」だと思うと言われた。」 ! 「白血病!」 「うん。このまま検査入院して、骨髄移植が出来れば骨髄移植になる。」 「骨髄移植ですか?」 「ただドナーが見つからないと」 「見つからないと?」 「莉乃は死んでしまうかも知れない。」 そんな、莉乃が死ぬなんて有り得ない 「僕の骨髄を使って下さい!」 「勝利君ありがとう。ただ誰でも良い訳では無いんだ。莉乃の身体に適合しないと駄目なんだよ。 一般的には兄弟が適合するケースが多いらしく、親の適合は少ないみたいなんだ。血族以外の適合は数万分の一の確率らしい。 医師が言うには、莉乃は兄弟がいないので、ドナー登録者から移植を行う事になるかも知れない。」 「では助かるんですか?」 「医者が言うには、ドナー登録者から適合者が見つかっても、提供してくれるかが、問題らしい」 「えっ?だって提供するために登録してるんじゃあ無いんですか?」 「ただ、提供する人も8日間ぐらい病院に来る必要があって、働いている人や時期が合わない人がいて半々らしいんだ。」 「そんな事って・・・」 「まずは検査して確定診断が出てからの話だけどね」 「はあ・・・」 何も出来ないのか? 歯痒い、日本に必ず適合者が何人、いや何十人といるのに、適合者が骨髄バンク登録をしているのかの有無で、莉乃の命が左右される。 とは言っても、僕もテレビのCMで骨髄バンクへの訴えを聞き流していた事に、今更ながら後悔していた。 そんな事を考えていると、車がマンション前に到着した。 僕が車を降りると、莉乃の父親が 「今日はありがとう」 と、いつもの笑顔は無く、病棟から出て来た時のように暗い険しい表情で言って、車を走らせた。 何も出来ない自分が惨めで、どうしようもない憤りを感じていた。 クソッ! と石を蹴る。 石が思ったより遠くへ転がっていく。 「誰かに当たったら、どうするんだよ!」 石が転がった先に、耕太が立っていた。 一生、友達の前で涙は見せないと思っていたが、何故だか涙が溢れ始めた。 「どうした!何かあったのか? もしかしてフラれたのか?」 声が出せそうもなくて首を横に振る。 僕がいきなり泣いたので、耕太が混乱しているのが分かった。 「まあ、あそこに座ろう」 近くのベンチに座った。 「ごめん耕太。何が何だか訳が分からなくて」 「それよりどうしたんだ?」 「莉乃が・・・倒れて、救急車で運ばれて、 医者が言うには白血病かもって言われた。 それで、取り敢えず検査入院した。」 「まじか?」 「さすがに冗談では言えないよ」 「だよな」 耕太も何を言っていいか、分からない様子で、沈黙の時間が過ぎる。 耕太が苦し紛れに 「とにかく、まだ確定して無いんだから」 精一杯の言葉だったのだろう。 内容はともかく、こんな時に一緒にいてくれる友達の存在は、今の僕にはとても有り難く、そしてとっても心強い存在だった。 「ごめんな耕太。」 「何が?」 「心配掛けちゃって」 「何言ってんだよ。友達なんだから、一緒に悩ませろよ!」 この時、本当に友達っていいなあ、とつくづく感じた瞬間だった。 ***** 次回 中学校編が終了
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