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大学病院に着いて、莉乃はそのまま診察室に入って行った。
救急の待合で待っていると、莉乃の父親から着信が入る。
電話で今までの経緯を話す。道端で倒れていた事、大学病院に運ばれて来たことを伝えた。
そして、診察室から医師が出て来た。
「お父さんと連絡がつきましたか?」
「はい」
「熱が40℃近くあるので、このまま入院になります。
お父さんが来たら、病棟に来るように言って下さい。」
「はい」
その後、看護師が来て、入院する病棟を教えてくれた。
取り敢えず、莉乃の父親父が来るまでこの場所で待つ事にした。
何でこんな事に
そんな事を考えながら1時間が経過した。
すると莉乃の父親が息を切らして、やって来た。
「莉乃は?」
「救急病棟に入院しましたので、案内します。」
「ありがとう」
先程、看護師が教えてくれた場所へ移動して、救命救急センターと書かれた場所に着いた。
病棟入口にあるインターホンを鳴らすと、
「はい救命センターです。」
「今入院した、結城の父ですが」
「はい、ではお父さんだけお入り下さい。」
僕は入れないのか!
莉乃の父親だけが、自動ドアから病棟に入って行く。病棟に入れない僕は、莉乃の父親が出て来るまで、病棟前の椅子に座って、莉乃の父親が出て来るのを待った。
・・・
どれだけ待ったのだろうか、待つ時間が長くなればなる程、嫌な予感が積み重なっていく。
どうしたんだろう?
すると救急病棟の自動ドアが開いた。
険しい顔をした莉乃の父親が出て来た。
あまりにも険しい表情なので、声を掛けづらい。
莉乃の父親が僕に気付き、声を掛けてくれた。
「あっ勝利君。車で来てるから、家まで送るよ」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですか?」
「あ〜大丈夫だよ。本人は寝てるし、この病院は家からも近いから、後でまた病院に行くから」
と言って、先に歩き出した。
僕は後を追いついていくが、言葉は喋らず黙々と駐車場に向かって歩いていく。
そして車まで着いて、僕は助手席に座った。
車を走らせ駐車場を出ると、莉乃の病気を伝えられた。
「勝利君。驚かないで聞いてくれ。
これから精密検査をするが、医師が言うには「急性リンパ性白血病」だと思うと言われた。」
!
「白血病!」
「うん。このまま検査入院して、骨髄移植が出来れば骨髄移植になる。」
「骨髄移植ですか?」
「ただドナーが見つからないと」
「見つからないと?」
「莉乃は死んでしまうかも知れない。」
そんな、莉乃が死ぬなんて有り得ない
「僕の骨髄を使って下さい!」
「勝利君ありがとう。ただ誰でも良い訳では無いんだ。莉乃の身体に適合しないと駄目なんだよ。
一般的には兄弟が適合するケースが多いらしく、親の適合は少ないみたいなんだ。血族以外の適合は数万分の一の確率らしい。
医師が言うには、莉乃は兄弟がいないので、ドナー登録者から移植を行う事になるかも知れない。」
「では助かるんですか?」
「医者が言うには、ドナー登録者から適合者が見つかっても、提供してくれるかが、問題らしい」
「えっ?だって提供するために登録してるんじゃあ無いんですか?」
「ただ、提供する人も8日間ぐらい病院に来る必要があって、働いている人や時期が合わない人がいて半々らしいんだ。」
「そんな事って・・・」
「まずは検査して確定診断が出てからの話だけどね」
「はあ・・・」
何も出来ないのか?
歯痒い、日本に必ず適合者が何人、いや何十人といるのに、適合者が骨髄バンク登録をしているのかの有無で、莉乃の命が左右される。
とは言っても、僕もテレビのCMで骨髄バンクへの訴えを聞き流していた事に、今更ながら後悔していた。
そんな事を考えていると、車がマンション前に到着した。
僕が車を降りると、莉乃の父親が
「今日はありがとう」
と、いつもの笑顔は無く、病棟から出て来た時のように暗い険しい表情で言って、車を走らせた。
何も出来ない自分が惨めで、どうしようもない憤りを感じていた。
クソッ!
と石を蹴る。
石が思ったより遠くへ転がっていく。
「誰かに当たったら、どうするんだよ!」
石が転がった先に、耕太が立っていた。
一生、友達の前で涙は見せないと思っていたが、何故だか涙が溢れ始めた。
「どうした!何かあったのか?
もしかしてフラれたのか?」
声が出せそうもなくて首を横に振る。
僕がいきなり泣いたので、耕太が混乱しているのが分かった。
「まあ、あそこに座ろう」
近くのベンチに座った。
「ごめん耕太。何が何だか訳が分からなくて」
「それよりどうしたんだ?」
「莉乃が・・・倒れて、救急車で運ばれて、
医者が言うには白血病かもって言われた。
それで、取り敢えず検査入院した。」
「まじか?」
「さすがに冗談では言えないよ」
「だよな」
耕太も何を言っていいか、分からない様子で、沈黙の時間が過ぎる。
耕太が苦し紛れに
「とにかく、まだ確定して無いんだから」
精一杯の言葉だったのだろう。
内容はともかく、こんな時に一緒にいてくれる友達の存在は、今の僕にはとても有り難く、そしてとっても心強い存在だった。
「ごめんな耕太。」
「何が?」
「心配掛けちゃって」
「何言ってんだよ。友達なんだから、一緒に悩ませろよ!」
この時、本当に友達っていいなあ、とつくづく感じた瞬間だった。
*****
次回
中学校編が終了
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