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近くには白い波が生まれては消え、消えては生まれて、遠くには水平線。眩しいフラッシュを焚いたような光景。ずっと昔からそこにあって、そしていつまでもなくならない。そういう錯覚をしてしまうような、夏の海。
健二郎の長い腕が、砂浜に落ちた貝殻を拾う。あれは何て名前の貝だっけ。健二郎の手のひらにすっぽり収まる貝。多分、私の手のひらには余る、大きな貝だ。
ちょっと前、例えば去年の夏なら、まだ背丈も一緒くらいだったし、手の大きさもほとんど一緒だったのに。この一年で健二郎は、驚くほど変わった。たまに、違う人なんじゃないかって、錯覚するくらいに。
海の景色はいつも変わらないから、私たちもずっとそのままでいられる、そんな気がしてた。でもそうじゃなかった。健二郎はどんどん変わっていく。そしてきっと私も。
私は、変わってしまうことが怖いのかな。だから、こんな風に、変わらないものを求めて、浜辺のものを拾うのだろうか。
「で?」
しばらくして、健二郎が、私の方も見ずに呟いた。
「で、って?」
「だから、いつにするかって話」
「はい?」
健二郎が目を合わせないのは、なにかに照れてるしるしだ。それはわかるけど、でも残念ながら、健二郎がいきなり何に照れ始めたのかわからない。私が首を傾げると、健二郎は怒ったように私を見た。
「デートするんだろ!?」
「…は?」
どうやら、さっきの私の質問を、”私と健二郎のデートの予定は?” …という具合に解釈したらしい。
確かに、突然だったし、そういう風にも聞こえたかもしれない。私にそんなつもりはなかったけど、もしかして、それで健二郎が照れて、黙ってたのだとしたら…急に顔が熱くなった。
ちらりと健二郎の方をみる。彼も顔が真っ赤だった。まだ夕焼けでもないというのに。
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