ヒーロー

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ヒーロー

ホノルル空港から降りた仁美は絢香を抱いてタクシーに乗った。 「ホノルルセントラル病院へお願いします」 アロハシャツ姿の運転手は笑顔で頷いて車を走らせた。 「お客さんは日本からですか?」 運転手はどこか上品な雰囲気を醸し出す東洋人女性は一目で日本人と分かった。 「はい」 「いま、あの病院にはヒーローが入院しているんだよ」 「まあ、どんな方ですか?」 「1週間前、一人でハイジャックから乗客を救った日本人なんだ」 「そんなに有名なんですか?」 「もちろん、毎日たくさんの人がお見舞いに来ている。  ハワイ州知事、第7艦隊司令長官、スチュアートエネルギー省長官、 そして一般市民もさ、すごいのは大統領からお見舞いの花束が届いたそうだ」 「そんなに凄いんですか?その方は」 「うん、聞いた話のよると・・・」 ~~~~~ JOL7007便と併走していたAH-64Dアパッチ・ロングボウから ロープで海兵隊員が降りてきた。 「ダン、飛行機が止まった瞬間フロントガラスから脱出して私に掴まってください」 「わかりました」 亮は機体が停止するまで操縦桿を握りブレーキを踏んだ。 「ダン、今です」 目の前に海兵隊員が手を差し伸べていた。 亮はシートベルトを海兵隊員から受け取ってナイフで切り外し立ち上がって 海兵隊員に手を差し伸べた。 「あ、足が引っかかっている」 亮はブレーキを踏んでいた右足首が 引っかかってコックピットから抜け出せなかった。 「早く、爆弾が爆発します」 亮はやっとの思いで右足を抜きフロントから体を乗り出し海兵隊員のたくましい手をしっかり握った。 「クリア!」 海兵隊員の指示でアパッチが7007便から離れた瞬間亮の座っていた椅子が爆発した。 「ウッ」 亮の腰に激痛が走り 海兵隊員の手を掴んだ亮の手の力が次第に 緩んで行った。 「亮、頑張って!死んじゃ嫌!」 救助された亮に向かってジェニファーが 涙を流し大声を上げた。 病院に運ばれた亮の背中や腰に沢山の飛行機体の破片が突き刺さっていた。 「意識レベル300、心肺停止!」 「AED用意」 亮の耳元で救急救命士と医師のやり取りが聞こえた。 ~~~~~ タクシーが着いた病院の玄関にはたくさんの花が飾られていた。 「運転手さんこのお花?」 「そうだ、ミスターダンの回復を祈って捧げられた花さ、そしてそのボードは彼に対するメッセージだ」 仁美を降ろした運転手は笑顔で車を走らせていった。 「うふふ」 仁美は花とボードに書いてあるメッセージを スマートフォンで写真に撮った。 「済みません、團亮の病室はどちらですか?」 受付で仁美が亮の病室を聞いた。 「どちら様ですか?」 受付の女性は怪訝な顔で仁美を見た。 「杉村仁美です」 仁美は自分のパスポートを見せた。 「おお、失礼しました。奥様ですね」 受付の女性が黒いスーツを着た男に目を向けると男は無表情で仁美に近づき無表情で言った。 「ご案内します」 男はイヤフォンをしたままサングラスを掛け仁美を庭に案内した。 「病室では?」 「いいえ、ミスターダンは一昨日意識が戻り  リハビリ中です」 「そうね、ジェニファーは命を張って亮を助けてくれたわね」 亮はちっとも偉ぶる事のない亮がとても素敵に思えた。 「そうだったんですか」 1日前に病院から連絡を受けた仁美は亮の回復の速いのに驚いていた。 亮は海の見える芝生に止めてある車椅子に座って後ろに立っている看護師と話をしていた。 「亮!」 仁美は早足で亮の元へ行った。 「ああ、仁美さん」 仁美は抱いていた絢香を亮に抱かせた。 「絢香、また大きくなったね」 亮は嬉しそうに笑って綾香に貌を近づけた。 「ダメよ、そのヒゲは絢香が痛がるわ」 仁美は絢香に頬ずりしようとした亮を止めた。 「ああ、すみません」 「私は良いわ」 仁美はそう言って亮とキスをした。 仁美は目をそらさず二人のキスを見ていた 看護師に挨拶をした。 「初めまして、仁美と申します」 「亮の介護を担当しているモアナです」 「ご苦労様です、モアナさん」 モアナの態度が刺々しいので 仁美は気になっていた。 「亮、体の具合は?」 「ごらんの通り下半身不随リハビリ中です」 「どれくらいで歩けるようになるの?」 「まだ、分かりません」 二人の会話にモアナが入って来た。 「日本語分かるの?モアナさん」 仁美は驚いていた。 「私の、ひいおじいさんは日本人なんです」 「まあ、それで日本語が上手なのね」 「それに亮に教えてもらったの、日本語」 モアナがそう言って亮を見る目に仁美は モアナが亮に思いを寄せている事にきづいた。 ただ一昨日に意識が戻ったと言うのに日本語を教えてもらったと言うのが 不思議だった。 「亮はここではヒーローになっているのね」 「それは間違っています。ロビンとジェニファーと海兵隊員たち そして多くの人助けで乗客を救う事が出来たんです。もちろん小妹とマギーも」 「うふふ、見事な連携だわ」 「だから日本に帰るときはこっそりと帰ります」 「それがいいわね、日本ではあまり話題になっていないから入国は楽だと思うわ」 「どうして?300人もの乗客を救ったのに・・・」 モアナは亮がやった事を評価されていない事が不思議だった。 「モアナ、それは日本では報道規制があって今回の全貌は明かされていないんだよ。  だから僕の名前を知っている人はほとんどいない」 「でも、亮が生きていた事を1週間もの間私に連絡をくれなかったの?」 「精密検査です。死んだ人間が生き返ったから不思議だったんじゃないですか?」 亮は周りを監視している男達を目で追った。 「死んだ?」 仁美が亮の顔を見た。 「いや、心配停止くらい大怪我した人は良くあります」 亮は仁美が心配しないように気を使った。 「違う!亮は何度も心臓が止まった。それに胸にこんな傷が」 モアナは亮のTシャツを捲り上げ亮の胸の傷を見せた。 「そんなの関係ない。仁美さん、僕はスタジオDの売り上げの1部で女性を救う組織を作ろうと思います」 亮はモアナの話しを途中で止めた。 「えっ!」 仁美は亮の突然言った事を聞きなおした。 「日本の女性は虐待、いじめ、DV、ストーカー、離婚後の職業不足、セクハラ、薬物にとても苦労しています。そんな女性のかけこみ寺を作ろうと思います」 「それは良いと思う、日本は弁護士の相談料は高いし、ストーカーは事件性が無ければ警察は動いてくれない、DVは夫婦喧嘩扱い、幼児虐待は躾といって公然と暴力を振るわれているわ。でもどうして急に?」 「意識が無い間に見た夢で思いつきました」 亮が言うと仁美は相変わらず突拍子も無い事を言うので笑っていた。 「ところで、私以外には誰も連絡が行っていないのかしら?」 仁美が言うと亮はモアナの方を見て言った。 「モアナしばらく仁美さんと散歩がしたい、僕の娘を預かっていてくれないか?」 「はい」 モアナは綾香を仁美から受け取った。 仁美が車椅子を押して海岸の方へ歩くと亮は後ろを向いた。 「誰もここに来ないとなると仁美さん以外には連絡が行っていないと思います」 「どうして?」 仁美の顔に手を伸ばして耳元で囁いた。 「実は僕がハイジャック犯のお金の有りかを僕が知っていると思っていて、意識が戻ってから何度か質問を受けています」 亮はモアナの前で言った、死から蘇った話しを否定して、監視の目から話しをしていないように見せるために仁美とキスをした。 「ひょっとしたらこの椅子に盗聴器が付いているかも知れません」 亮は続けて仁美の髪を掻き揚げ耳元で囁いた。 FBIはハイジャック犯のジェイクが 飛行機の中の映像配信のアクセス料の1000万アクセス×20ドルつまり2億ドルに関する何かのメッセージを亮に残して行ったのではないかと疑っていた。 ~~~~~ 1週間前JOL7007便の中で亮とジャイクが戦いフロントガラスが割れた。 「た、助けてくれ!」 シートベルトをしていなかったジャイクの体がコックピット内で体が、何度かバウンドするとフロントガラスから半分体を外に出し 亮は手を伸ばしジャイクの手を掴んだ。 「助けてくれるのか?こんな俺でも?」 「当然だ、助けを求める者には手を差し伸べる」 亮は思い切りジャイクの手を引いた。 「ありがとうよ」 ジャイクはナンバーを言うと亮の手から滑って機外に放り出され10000メートルの高さから真っ暗な太平洋に落ちていった。 ~~~~~ 亮はその時のジェイクが言ったナンバーを忘れてはいなかった。 ただ、ジェイクのお金をFBIが 勝手に凍結していいか疑問を持ち亮はFBIには答えていなかった。 「なんかやばそうね」 仁美の目には何人かの黒服の男達が映っていた。 「ええ、僕は四六時中こうやって監視されています。綾香をモアナに預けたのは二人きりになるためです。まさか自分の娘を預けたまま逃げ出す事は無いですからね」 亮と仁美は監視の男達の目の前で抱き合いながら小声で会話を続けた。 「亮、あなたは本当に金の在り処知らないの?」 「もちろん、あんなの緊急の時にどうやって犯人から金の在り処を 聞き出すことが出来ると思いますか?FBIはいずれ諦めると思いますよ」 亮は仁美に嘘をついた。 「そうね・・・」 仁美は亮の言い分を最もだと思った。 「みんなは元気ですか?」 亮は普通の会話に戻した。 「ええ、お父様は亮の仕事の代行をしていてくれたわ、それにタクシー会社を買収したそうよ。お姉様たちもスタジオDニューヨークのオープンで奔走しているしマッスルカーブはもうすぐオープンだし」 「そうですか。タクシー会社か・・・まさか地獄タクシーじゃないだろうな・・・」 亮は首を傾げた。 仁美は事件が起きてからの1週間の色々な話をした。 「さて、これからリハビリの時間です」 「わかった、しばらくハワイにいて明日の午前中にまた来るわ」 「そうですね。まだ大学は夏休みだし問題なければせっかく来たんだからゆっくりしていくといいですよ」 「そうね、そうするわ」 仁美は車椅子を押してモアナのところへ 行き綾香を受け取って病院から帰っていった。 ~~~~~ 「仁美さんは亮の奥さん?」 仁美に嫉妬したモアナが亮に聞いた。 「いいえ、綾香は僕の娘ですが仁美さんは僕と結婚してくれません」 「彼女が拒否しているの?」 「そうです」 モアナは自分が好意を寄せている亮と 籍を入れない仁美が不思議で呟いた。 「信じられない。きっと他にも男がいるのね」 「何か言いましたか?」 「い、いいえ」 モアナは自分の小さな呟きに反応した亮に 驚いて声が詰まった。 ~~~~~ 仁美は病院に近いハイアットリージェンシーに部屋を取り部屋に入るとバッグから小さく折りたたんだ紙を見つけた。 「仁美さん、病院ではいたるところで盗聴されている可能性があります。  至急ロビンに連絡を取ってください。 スマートフォンもホテルの部屋も盗聴されているかも知れませんので、日本観光客から日本製のスマートフォンを借りて使ってください」 それは亮の仁美に対する手紙だった。 「何よ!面倒ね」 仁美は文句を言いながら大きく割れたスリットの入ったワンピースに着替えた。 「さて、ハワイは新婚旅行が多いから男性から借りるのは難しいかな」 仁美は綾香をホテルのベビーシッターに預けるとタクシーに乗りアラモアナショッピングセンターに向かった。 ~~~~~ 「ねえ、モアナ。あなたダンさんの介護担当でうらやましいわ」 亮の病室から出てきたモアナに同僚のメグが声をかけた。 「えっ、どうして?」 「だってあんなに素敵な男性の介護やりがいあるでしょう。私彼の寝顔を見たことがあるけど、あそこがウズウズしてきたもの」 「寝顔を見ただけで?」 モアナは聞き返した。 「うん、あなたはならないの?」 メグに聞かれたモアナは笑っただけで答えなかった。 ~~~~~ 亮が目覚めた2日後 ベッドに横たわった亮がモアナに言った。 「モアナ、僕は誰なんでしょう?」 「まだ、記憶が戻らないんですね。團亮さんです。ハイジャック犯と戦って乗客を護ったヒーローですよ」 モアナは優しく亮の耳元で囁いた。 「そうですか、僕は夢の中でひたすら鬼と戦っていました」 「そう、その間あなたは何度も心臓が止まっていたわ」 「すみません、お世話になりました」 「ううん、助かってよかった・・・」 「モアナって可愛いですね」 「ありがとう亮」 亮はモアナの首に手を回しキスをした。 モアナは一瞬驚いたが口の中に入って来た 亮の舌使いの上手さに離なれる事が出来なかった。 モアナは床に膝まつきベッドの上の亮の顔を手で押さえ求めるようにキスをした。 「ただ、キスだけでこんなに感じるの。何者なの貴方は・・・」 モアナの脳の思考は無くなりただ快楽を求めるだけの女になっていた。 「トン・トン・トン」 その時病室のドアがノックされた。 モアナが慌てて胸のボタンを締めると スミス医師が入って来た。 「ダンさん、少しは記憶が戻りましたか?」 「はい、僕は相当女好きだったようです」 亮はそう言ってモアナの方を笑ってみた。 「あはは、男はみんな女好きですよ」 スミスはそう言って亮のカルテを見た。 「ところで、僕の下半身が動かないんですけど」 「ええ、爆発の時の破片が脊髄に刺さって  それが影響しているのかと思います」 「治りますか?」 「はい、傷が治って神経が繋がればリハビリで何とか歩けるようになると思います」 スミスは亮が歩けるようになる事を伝えた。 「じゃあ、あそこは?」 亮が股間を指差すとスミスは笑いながら答えた。 「あそこは微妙なところだからね、気に病むことは無いです リハビリは難しいが何かの拍子に元気になるかも知れない せいぜい良い女を見ているといい」 「分かりました」 亮が返事をするとモアナは舌なめずりをして微笑んだ。 ~~~~~ 「ねえ、メグ。ダンさんに誘われたらあなたならどうする?」 モアナは仁美に会ったやきもちで興奮していた。 「もし上手かったら?」 「大歓迎よ、入院中毎晩上に乗っちゃうかも。でも彼不能なんでしょ」 「ええそうね」 モアナが着替えて病院から出ると車が止まっておりモアナはその後部座席に乗った。 「モアナ、今日の團亮の様子はどうだった?」
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