亮の誘拐

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「はい、この八ツ橋粒あんが美味しいですよ。理恵さんと食べてください」 「あ、ありがとう」 亮は隣の秘書室の葉子にも八ツ橋を渡してきた。 「亮君、頼むから向こうではもっと堂々としていてくれないか? 合弁会社の一員なんだから」 「堂々ですか・・・分かりました」 亮は内村に叱られているような気がして落ち込んでいた。 「君は御尊祖父や御父上に帝王学を学んでいるんだ、わかっているだろう」 「はい、帝王学ってなんでしょう。あの製紙会社の息子の会長が100億円も ギャンブルで使ってしまっているんです。某鉄道会社の会長は株を偽名で持っていたり 帝王学は支配ではありません」 「確かに帝王学と言えば一族支配の為の教育と思われがちだが あれは間違った教育だ」 「ええ、大きな会社の従業員は社長と直接話すことができません。 それどころか姿すら見る事ができないんです。 だから従業員は会社の意向を感じ取るしかないんです」 「では、社長はどうするべきだ?」 「社長が専務に専務は常務に常務は部長に意思を伝えていくものだと思います」 「では部下の苦しみを社長はどうやって感じ取る?」 「対話しかありません」 「では嘘をついたら?」 「忠誠心を持った部下を持ちます」 「その忠誠心は会社へか?社長へか?」 「もちろん社長へです」 「今から会社を作っていく人間には人づくりと言う 夢が有って羨ましいよ。うちの会社のように5000人も従業人がいると それが出来なくなっている。たとえどんなに優秀な人材が居たとしても 出身校で篩に掛けて落としてしまっている」 「きっと僕も採用に落ちたかもしれませんね。担当官と喧嘩して」 「あはは、確かに君のような優秀すぎる人材は嫌われる。うぶな新入社員は  きっと同期の君をリーダーと崇め奉るだろう。そうなれば組織は崩壊する」 「その為には新卒者採用のスタイルを変えなければなりませんね。もっとインターシップ制度 (学生の就職のための社内研修制度)を広げるべきです。どのみち学生はアルバイトをしているのですから、1年生からだって早すぎる事はありません。雇用の約束があれば 就職活動の必要がありませんから努力するはずです」 「なるほど」 「例えば今回のショッピングモールも学生のインターシップを使えば 色々なアイディアが生まれてくると思います。問題になっている無給は 止めてしっかり給与は払うべきです」 「その通りだ、就職活動での無駄な時間そして新卒者の就職浪人を 減らすことができる。亮君が受けた教育はどんなものだった?」 「うちの家庭は中学になると毎年元旦にお年玉として 1年分のお小遣いをもらいます。それを増やしてもよし、12等分してもよし それは自由です」 「それで」 自分の孫を溺愛している内村はとても気になった。 「うちの姉たちはそれぞれの特技を利用して 長女の美沙江は彫金の商品を美宝堂で委託販売、 次女の千沙子は高校時代には自分のブランドを立ち上げていました。 二人とも美宝堂のバーゲン品をオークションで売って儲けていました」 「君は?」 「僕は中学の時父の口座を使って株のトレーディング、帝國製薬の株を買って 配当を貰っていました。大学の時にはすでに 株の配当で十分小遣いはまかなえましたので 帝國製薬の研究室で思う存分研究ができました。 そして、年末の美宝堂ではお店に立ってブランド品を売っていました」 「まるでロックフェラー一族の教育だな」 「はい、経営者たるものお金の大事さを知れ。知識を技術に変ろ。  社員を信じ自分を信じ未来を信じろ、が祖父の口癖です」 「いい言葉、おっしゃっている。さすが團拓馬さんだ」 「そのおかげで父は僕の事を信じてデビッド・キャンベルの バイオ燃料事業に黙って投資してくれたんです」 「それで、デビッドの父親のナチュラルグリルと関わった訳だな」 「はい、当時は馬鹿でかいハンバーグを売っていて業績不振で喘いでいる レストランチェーンでしたがテニスボールのようなサフランライスと 日本料理そして徹底したローカロリーのメニューにしたんです」 「まさか、それが亮のアイディアだったとは言わないよな」 「いいえ、全て僕のアイディアです。大豆を使ったメニューは 全米のベジタリアン400万人の支持をうけブレイクしたんです。 それで僕はアジア担当の取締役という訳です」 「それがなぜ君は日本では謙虚な態度を取っているんだ?」 「日本の封建的な社会が嫌なんです。いい商品は全て 大手が作ると思っている消費者、会社名で判断する 企業、実績がないと融資しない銀行。誰も先を見据えていません。 もしある学生がものすごいいいアイディアを持っていたら どの部署が聞いてくれますか?」 「それは耳が痛い話だ」 内村は腕を組んで天井を見上げた。 「それがハーバード大学の学生だったらどうしますか?」 「きっと担当者は耳を貸すだろう」 「要するに日本の企業は自分の国の学生を信じていないわけです」 「あはは、なるほど亮君私が悪かった。君は君にスタイルを通せばいい」 「はい、まだ若いので何でもできるスーパープレジデントを通すつもりです」 「それが出来る君が羨ましいいよ」 「ありがとうございます。ITベンチャー企業の創業者のような無作法な事はしませんので」 「それはわかっているさ。さて行くか」 「はい」 内村は葉子に書類を持たせて亮と四菱鉱山に入った。 ~~~~~ 「團さん呼んでもらえますか?」 下田と根本が新宿署の取調室で 田渕憲一の話をすると国城が話し始めた。 「團さんじゃないとダメか?」 「はい、團さんに話したい事があります」 「わかった」 下田と根本は困って取調室から出た。 「どうしますか?團さんを呼びますか?」 「うん、仕方ない。お願いしよう」 下田はスマートフォンのボタンを押した。 ~~~~~ 「もしもし、團です」 「お忙しいところすみません、下田です。今国城に 田渕憲一が殺された話をしたら團さんと話がはしたいと言っています。 お願いできますか?」 「分かりました。国城さんに電話を代わってください」 「はあ、はい」 下田が取調室に入って国城にスマートフォンを渡した。 「国城さん、團です」 「はい」 「昨日妹さんの所へ行ってきました。 松井先生の許可の元に帝国製薬から白血病の新薬の臨床試験という事で 無償で薬を提供されることになりました。 それから入院費は帝國製薬の支払いで完納しました。これからも入院費は 退院まで帝國製薬が負担します」 「本当ですか?」 「変な薬ではありませんので心配しないでください」 「ありがとうございます・・・團さん」 正章は肩の力が抜け、涙が溢れてきた。 「田渕憲一は僕の友人です、一緒にスキャナーを作っていました」 「なぜ殺されたかわかりますか?」 「わかりません、田渕は大型スキャナーの製造を担当していました」 「大型機と言うとひょっとしたらETCですか?」 「はい、でもそれだけじゃありません。走っている車のクレジットカードからも同時に  スキャニングをしてしまうんです」 「それが京都?」 「わかりません、田渕が場所を探していました。 旅行者が多く時速20km以下の渋滞するところです」 「分かりました。それと、あなたと知念さんとの関係は?」 国城は知念の名を聞いて驚いたが観念して答えた。 「知念さんとは僕が働いていたお店、ニューハーブクラブの常連でした。 それで高性能スキャナーを使ったレジのいらない お店が出来る話をしたら乗ってくれて、開発費を出してくれたんです」 「それが使う道が違っていて人の金を盗む事に使うなんて 夢にも思いませんでした。でも妹の入院費がどうしても必要だったので すみません」 「では、ピーエヌエーの会社ぐるみの仕事でしょうか?」 「わかりません、社長の葛原さんに会ったのが1回だけでしたから・・・ 僕が知っているのはここまでです。だから僕を護ってください。妹を残して死にたくない」 国城は友人の田渕が殺された事に恐怖心を持っていた。 「分かりました。警察が責任を持って護ります。後は下田さんと根本さんに正直に話してください」 「はい・・・」 国城は信頼おける亮がいない事に不安を持っていた。 「きっと妹さんが元気になってまた歌って踊れるようになります」
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