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宿の人にもらった非常用の蝋燭を机の真ん中に置いて、ライターで火を点けると先生は懐中電灯を消した。
「これで足りますかね……浅川さんが暗いのが嫌なら、こっちも点けますが」
「いえ、大丈夫です。っていうか、懐中電灯だと明る過ぎて目がちかちかするから」
「そうですね。……パソコンも出来ないし。目休めますか」
溜息つきながら先生は窓辺に寄り掛かって腰を下ろした。
「下は大丈夫ですか」
「余計に盛り上がってましたよ。怪談大会やるって言って。まあ他に宿泊客は居ないから、いいんじゃないですか」
それでさっきからキャーキャー言ってるのか。
「それから、皆さん心配してましたから、浅川さんは具合が悪いので離れの部屋を借りて休んでいると言っておきました」
「……すいません」
「僕が偉そうに言える立場じゃないですけど、……もし何か嫌なことを言われたりがあったとしても、酒の席でのことだし、口でいろいろ言ってもゼミ長のあなたには感謝はしてるでしょうから、忘れてあげたらどうですか」
「風俗とかキャバ嬢とか言われても?」
「……それは、浅川さんがそういう仕事をしてるんじゃないかという話ですか?」
「冗談半分だとは思いますけど」
停電で、あまり親しくもないゼミの先生と二人きりで、灯りは蝋燭一本というのはかなり非常事態なんだろうけど不思議に心は静かだった。
足掻いてもどうしようもない状況っていうのは、悩む必要もない。
「実際してるわけじゃないんでしょう」
「近いことはしてるけど、近所のスナックでおじさんの話相手するくらいですよ。誘われればカラオケとか居酒屋くらい付き合ったりはするけど。……あたし、ファミレスとそこと二つバイトしてるんですけど、学校の子にはファミレスの方しか話してないんです。で、……」
私が言葉を止めると、先生は言った。
「言いたければ聞くし、面倒ならこの話終わりでいいですよ」
「あ、いえ。あたし的にはそんな大した話じゃないんですけど、ただ、なんかこう……そんな個人的な話を先生にしても迷惑じゃないかと」
「それなら、僕も個人的な話をしましょうか」
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