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長い階段を上りきる頃には、着ていた服が体に張り付くほど汗をかいていた。
「何じゃ、帰らんかったんか。ホンマ来てほしゅうなかったんやけどな」
大きな赤い鳥居の向こうには大きな神社が有った。初詣や受験時にはそこそこの参拝者が訪れるこの神社も、今は訳有って和尚一人で切り盛りしていた。
和尚は既に境内の掃き掃除中だった。上がって横になっている店主らしき男を横目に掃除の手を止める事も無く、自分の決めた予定の時間が有るのか、かいた汗も拭わず掃除を必死にしていた。
「あの、お願いが」
「見て解らんか?今掃除中や、それにこれから夕飯の準備もあるんやからお前に構うてる暇はない」
いかつい顔の和尚は、いかついと言うより険しい顔のままあっという間に掃除を終わらせると、さっさと掃いたゴミをゴミ箱に入れ、神社裏にある家の方へそそくさと向かってしまった。
「ちょっと、折角お客が来たのにこの扱いは酷くないですか?」
「知るか!来るな」
悪態を叩きつける和尚であったが、男を無理矢理帰したりはしなかった。それを知っているからこそ、店主らしき男も敢えて反抗もしない変わった信頼関係の様なものが有った。
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