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 和尚をおいて、勝手知ったる家の中を足音も立てずに歩き回る。その最奥、物々しい襖には縄と札が掛けられ、入る者を躊躇させる様な異様と呼べる場所となっていた。 「奥さ~ん。失礼しますよ」  男は縄と札を傷つけない様に気をつけながら襖をそっと開けると、物音も経てずにゆっくりと中に入った。  そこに横たわる一人の女性。布団から動く事は無く、ずっと眠り続けている女性こそが和尚の伴侶である。  男はまるで友達の寝ている所に遊びに行くかのように女性に近づくと、目隠しをしていた赤い布をそっと解くと、まじまじとその顔を眺める。 「いやぁ。相変わらず醜い事」  決して女性が醜い訳では無く、そう言うつもりで言った訳でもない。男は目の周りに纏わりつくそれに向かってそう言った。  灰色の目の周りに纏わりつくそれは、アメーバーの様に顔を半分覆い黄色い一つ目が此方を向いて睨むように注視してくる。  それは蠢きながら彼女の生気を吸い続ける。和尚が言う化生という言葉がしっくりくる化け物が女性の顔には張り付いていた。
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