2/10
122人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
「大丈夫です。アパートの一室を何とか壊せるようにして頂くだけなので」  立ち退きは終わったのに、どういう理由かアパートが壊せない。正確にはそのアパートの一室が壊せないでいた。  ガス、水道を止めに入った業者が帰って来ない事はよくあった。人払いも済んでいたがこればっかりはやらない訳には行かない。  元より空室であった開かずの間は、解体と言うフィナーレを迎えんとするアパートの憂愁の美を阻害するものにすぎないと語る。 「でもなぁ。壊すだけなら爆破でもすればいいじゃないですか」 「だから、ガス水道がちゃんと止まってるか解らないから確かめに行ってるんだが、爆破して引火したらそれこそ取り返しもつかないでしょう」  そう言うと、男はどうかついて来るだけでも良いと言うと小切手に丸を付けくわえた。 「これ以上、我々に時間は無い。だから金に糸目は着けないのでどうかよろしくお願いします」  丸が一つ付けられ、揺らぐ決心も固まる。店主らしき男はニヤリと笑うと快く引き受けた。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!