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 部屋の奥。血なまぐさい室内の中を歩き、ようやく辿り着いた老婆の居る場所までやって来ると、出来上がったばかりのそれを後ろから覗きこむ様に店主らしき男は見た。 「なるほど。人間の皮で出来た鞄ですか、見事なものです」  そう褒めると、老婆が振り返った。薄暗く見えにくかったが距離が近かったことも有り、店主と同じように不気味に笑った顔が見えた。  肩を揺らし笑いながら、小刻みに揺れる度に目玉が落ち、頭から皮膚がべちゃべちゃと剥がれ落ちる様に肉が削げていく。  老婆は見る見るうちに骨だけになったかと思うと、最後に残ったのは大きな布団針一本であった。  鞄を手に取った瞬間、陶器が砕ける様な音と共に辺りに転がっていた頭部が割れると、中から見た事も無いような黒く巨大な人の顔のついたムカデが湧きだした。  店主らしき男は、鞄を持ったまま駆け足でアパートの部屋を出ると、外に居た依頼主たちに声を掛けた。 「今、此処にいると危ないかも知れませんよ。どうしてもあの部屋を処理したいなら家ごと火をつけるか、屋根を抜いて日光を当てれば何とかなるかも知れませんけどね」  それを聞くと、依頼主は火をつけに行こうとしたがSP達がそれを止め、高級車で逃げ出すと辺りには人一人通らないような閑散とした道に変わる。  後日、あの家は解体業者によって屋根を抜かれると、何の問題も無くアパートは更地に変えられたそうだ。  ただ、その間にあの周辺で変死事件が多発し、精神に異常をきたした人々が集団で現れた事が新聞になっていた。  その新聞を読みながら”ひひひ”と今日も骨董品店の中で彼は笑うのだろう。
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