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「あの果物、結局何だったんですか?」 「アレは妖精が共食いするようにしかけた薬です。食べたものが他の者に噛みつき最後は妖精全てに感染し、放って置けば全滅させられる予定だったんですが」  家の状態を見るなり、どうやら予定通りに行かなかった事が窺えた。理由はなんだったのか考えた所で意味はないと、抱えた鉢を持ったまま立ち去ろうとした。 「あの、本当に終わったんでしょうか?」 「妖精ですか、それはあそこに居る本当の家の持ち主にでも聞いてください」  そう言い指差したのは、先程ウロウロしていた浮浪者だった。あの男が此処の家の執着心から妖精に何やら取引を行ったらしい。  しかし、リスクを考えなかった男は、等々自分の自我と引き換えにこの家に妖精を差し向ける事が出来てしまった。  それだけの話である、しかしどうしてあの男が此処に執着していたのかも結局は解らず仕舞いのままであったが、これからどうするかはもう決まっていた。  この家は暫く空家となる事になる。改装される事も、引っ越し荷物を取り出される事も無かった。引っ越したばかりであったにも拘らず、すぐさま私は家を手放す事となった。  時折この町に用事でやって来る際、この家を通った際に何故か”ひひひ”と何処か聞き覚えのある薄気味悪い声が聞こえる度に今でも怒りは込み上げるばかりである。
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