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「あの、此処ってお祓いとかしてくれる所なんですか?」  店に入るなりそう言って来た小太りの男は、まるでフルマラソンでも走った後の様にしっびりと服が湿る程汗をかいていた。 「いえいえ、御覧の通りの骨董品屋です。何か買って行かれますか?」  奥に居た店主らしき男は、本から此方に体ごと向き直ると、その若さから店主か店員か解らない年齢不詳の魔性さを感じさせる。そして、にこやかで清々しく色気の様なものを感じさせながらそう答えた。 「そうですか。すみません、では他を当たってみます」 「まぁまぁ、暑いですので良かったらこれでも」  男はそう言いながら、折るタイプのアイスの片割れを手渡した。もう片方は既に口の中に入って居る所を見ると、自分一人で一本は食べたく無かったのかも知れない。 「どうも、ありがとうございます」  そう言いながら、呆けた顔でアイスを口に運んだ。口の中に甘さと冷たさを感じながら、目の前の店主らしき男を見る。  同性に興味など無い小太り男だったが、咥えたままのアイスの水滴が喉に伝い、熱で曇った眼鏡を拭くさまは、何かおかしな感情の間違いが起こりそうでもあった。
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