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「こいつ、目を覚ましそうもねえな。もうしばらくは熟睡かもな。俺らもそろそろ寝っか」
「……ああ、うん。そうすっか」
しかし、八畳一間にダブルベッドが幅を取っている上に、布団を二組敷いたらさすがに狭い。ローテーブルやらゴミ箱やらを隅に片付けたものの、足の踏み場もない程である。
「狭えけど勘弁な?」
「いや、全然」
遼二は静かに部屋の灯りを落とすと、二人それぞれの布団へと潜り込んだ。
朝になって、連れ帰った男が目を覚ましたら、いろいろと酷な現実が待っているだろう。紫月は覚えていないと言ったが、この男の方では紫月のことを覚えているかも知れない。
それに、何といっても揃いの指輪を見せれば当時のことを思い出すだろう。二人の間では懐かしむだろうし、今現在、彼がどういった境遇にあるのかも知ることができるだろうか。怪我の原因も気掛かりだし、明日は朝一番から何かと忙しなくなりそうだ。
遼二は隣の紫月へと身体を向けると、そっと手を伸ばし、頬に触れた。
「な、紫月――もっとこっち寄れって」
トーンを控えた低い声が暗闇の中で甘やかに、少しの切なさを伴いながらそう呼んだ。
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