愛しいからこそ

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 この遼二とは、初めて指輪の男のことを打ち明けた時には、取っ組み合いの喧嘩になったくらいだ。今、その当人を見つけ出して、少なからず複雑な心境でいるのだろうことを思うと、何だか彼の心の内が分かるような気がしていた。どうせまた、いらぬ心配でもしているのかも知れない。  紫月は僅かに微笑むと、遼二の唇を目掛けて自らのを重ね、軽くキスをした。  驚いたのは遼二だ。 「おま……ッ、何……急に……」  まさかのフェイントに思考が付いていかないといったのが、丸分かりなところが何とも言えず微笑ましい。紫月は再びクスッと笑むと、 「お前がさ、また余計な心配してんじゃねえかって思ったからよ」 「は? 何だよそれ、心配なんてしてね……っつの!」 「ならいいけどよ」  未だ口元を弓形に緩めながら、紫月は言った。 「だいじょぶだって。お前が考えてるようなことにはなんねえから」 「……俺が……考えてるようなこと……って、何」  少々しどろもどろな遼二の腕の中で、紫月は悪戯そうに笑った。
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