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赤い指輪の男の正体
「やっぱ見覚えあるのか? じゃあ、じゃあさ……俺ンことは覚えてねえ?」
紫月が少し逸ったようにそう訊いたが、倫周という男は戸惑ったように首を傾げるだけだった。どうやら彼の方でも覚えがないらしい。
「これ、あんたが俺にくれたもんだと思うんだけど……。小学校の低学年くらいん時。湖の別荘地で俺と会ってるはずなんだ」
「え……?」
倫周という男はまた一度考え込むように首を傾げたが、やはり記憶にないようである。そして、紫月の差し出した指輪と自分のを見比べながら、申し訳なさそうにこう言った。
「すみません。僕の指輪は戴いたものなんです。なので、その指輪は僕が差し上げたものじゃないと思います。それに――」
小学生の頃に別荘地のような所に行った覚えもないと付け足した。
「僕は小さい頃に両親を亡くしていて……伯父夫婦に引き取られて育ったんです。伯父が別荘を持っているかも知りませんし、そういった所に連れて行ってもらったこともありません」
残念ながら人違いだろうと倫周は言った。
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