私立桃陵学園

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私立桃陵学園

 始業式と同時に入学式が行われる桃陵学園(とうりょうがくえん)では、新入生以外は少々下校時間が遅い。  混み合う下校時を避けるように、わざと遅れて校門を出てきた長身の男は、駅近くの繁華街に差し掛かった所で不穏な空気をまとった集団に気付いて歩をゆるめた。  制服から判断して、どうやら自分のところの新入生らしき連中が他校の複数人に囲まれて困惑しているようである。遠目からではあるが、それに気付いた男は若干面倒臭そうな素振りで小さな舌打ちを鳴らした。  この男は桃陵学園高等部に通う三年生であり、つまりは学年でいえば四天学園の鐘崎遼二や一之宮紫月らと同い年である。  絡まれている新入生に面識はないが、同じ学園の後輩にあたる者の窮地に知らんふりをする道理はない。面倒事はご免こうむりたいが、致し方ない――そう思って足早に歩を踏み出した、その時だった。  見覚えのある黒い学ラン姿の数人が、一足先に彼らに助け船を出すようにして割って入るのを目撃したのだ。その学ランが、自らの桃陵学園とは因縁関係などと言われている隣の四天学園の制服だということは聞かずともすぐに分かった。
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