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「アメリアさんと、コハクちゃんでしたっけ? お二人の噂も村で聞きました。弟が大変お世話になっているようで」
「いえいえ。そんな! こちらこそ、クリスさんには、大変お世話になっています」
礼をする実兄に、顔の前で何度も手をぶんぶんと振って、アメリアは否定した。
「ところで、そのクリスというのは? 弟にはマキシミリアンという名前があるはずですが……」
「私がつけて欲しいと、アメリアに頼んだ」
話に割り込んできたクリスに視線を向けて、実兄は説明を求めた。
クリスは簡単に、アメリアに名前をつけてもらったきっかけを話したのだった。
「事情はわかった。しかし、マキシミリアンはマキシミリアンだ。私達の大切な弟だ」
クリスは静かに首を振った。
「いいえ、私はクリスタスーークリスです。人間にも、ドラゴンにもなれなかった存在」
クリスは辛そうに顔を歪ませながら、続ける。
「兄上達が話す、マキシミリアンは死んだのです。あのドラゴン討伐の日に」
「な、何を言っているんだ!? マキシミリアン。父上と母上も心配していた。お前は家に戻るんだ。そもそも、騎士団に入ってから、一度も顔を見せに来ていないだろう」
クリスは、何度も首を横に振り続ける。
「いいえ。私にとっての家はここです。そうして、私にとっての家族は、アメリアとコハクだけです」
「クリスさん……」
アメリアが呟くと、クリスはそっと笑みを浮かべた。
「それに、こんな姿になった私を、父上と母上は自分の息子だとわからないでしょう。それどころか、悪戯に心を乱す事になる」
これには、実兄は強く否定をした。
「いいや。マキシミリアン。父上と母上もわかる筈だ。この俺がわかったのだ。何度も言っているが、見た目が変わろうが、その柔らかな雰囲気は俺の大切な弟であるマキシミリアンだと……!」
これにはアメリアが首を傾げた。
「何度も言った?」
「ああ、兄上は村に押しかけては、私の仕事が終わる度に説得してきたのだ」
自宅についてこられないように、引き離すのが大変だったと、溜め息混じりに話すクリスの言葉から、ここ最近、クリスの帰宅が遅かった理由を、アメリアはようやく知ったのだった。
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