兄の来訪

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「ここまで嫌がるには、何か理由があると思って、手紙を出して村人の後をつけてみれば……。まさか、こんな村外れに住んでいて、結婚して娘がいるとはな……」 「兄上、アメリアは」 「私はクリスさんと結婚していません!」 クリスの言葉に重ねるように、アメリアは否定をする。その言葉に、実兄だけではなく、何故かクリスまでもが、目を見開いて驚いていたのだった。 「それよりも、クリス。今日こそは父上と母上に会う為に帰ってもらうぞ。心配しなくても、最近、国境付近の道の整備が進んでな、馬車を飛ばせば、三日くらいで家に着く」 何故か、自信満々に話す実兄に対して、尚もクリスは渋っていた。 「ですから、兄上……」 「クリスさん」 アメリアはテーブル上のクリスの手に、そっと触れる。 「お兄さんがここまで言うという事は、それだけご両親が心配されているんです。会ってみてはどうですか?」 「だが、アメリア」 クリスはアメリアの手に、更に手を重ねた。 「クリスさんが会いたくない気持ちもわかります。けれども、会えるうちに会った方がいいと思うんです……。私は、もう会いたくても、会えないから……」 「アメリア……」 クリスはアメリアの家族が、異世界にいる事ーーアメリアがいくら会いたくても、もう会えない事に気づいたのだった。 クリスはしばし考えると、頷いた。 「わかりました。父上と母上に会います」 「ほ、本当か!?」 「ただし、条件があります」 クリスは実兄を見つめると、掌でアメリアと寝そうになっているコハクを示した。 「アメリアとコハクも一緒です。私一人だけでは、会いません」 「えっ!?」と驚くアメリアと反対に、クリスはふっと笑って、アメリアを見つめた。 そうして、クリスの言葉に、実兄はやや困ったように、それでも頷いたのだった。 「わかった。それでは、二人の為の馬車を用意させよう。さすがに、男二人と同じ馬車は嫌だろう」 「いいえ。私は一緒でも構いません」 「アメリア、それは兄上の言葉に従った方が……」 アメリアは首を振って否定した。 「馬車の手配を待っていたら、時間がかかってしまいます。到着まで三日もかかるのなら、早く出発した方がいいと思います」 それに、とアメリアはクリスを見つめる。 「早く済ませた方がいいですよね。こういったことは」 クリスは頷く事しか出来なかったのだった。
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