14人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「ここまで嫌がるには、何か理由があると思って、手紙を出して村人の後をつけてみれば……。まさか、こんな村外れに住んでいて、結婚して娘がいるとはな……」
「兄上、アメリアは」
「私はクリスさんと結婚していません!」
クリスの言葉に重ねるように、アメリアは否定をする。その言葉に、実兄だけではなく、何故かクリスまでもが、目を見開いて驚いていたのだった。
「それよりも、クリス。今日こそは父上と母上に会う為に帰ってもらうぞ。心配しなくても、最近、国境付近の道の整備が進んでな、馬車を飛ばせば、三日くらいで家に着く」
何故か、自信満々に話す実兄に対して、尚もクリスは渋っていた。
「ですから、兄上……」
「クリスさん」
アメリアはテーブル上のクリスの手に、そっと触れる。
「お兄さんがここまで言うという事は、それだけご両親が心配されているんです。会ってみてはどうですか?」
「だが、アメリア」
クリスはアメリアの手に、更に手を重ねた。
「クリスさんが会いたくない気持ちもわかります。けれども、会えるうちに会った方がいいと思うんです……。私は、もう会いたくても、会えないから……」
「アメリア……」
クリスはアメリアの家族が、異世界にいる事ーーアメリアがいくら会いたくても、もう会えない事に気づいたのだった。
クリスはしばし考えると、頷いた。
「わかりました。父上と母上に会います」
「ほ、本当か!?」
「ただし、条件があります」
クリスは実兄を見つめると、掌でアメリアと寝そうになっているコハクを示した。
「アメリアとコハクも一緒です。私一人だけでは、会いません」
「えっ!?」と驚くアメリアと反対に、クリスはふっと笑って、アメリアを見つめた。
そうして、クリスの言葉に、実兄はやや困ったように、それでも頷いたのだった。
「わかった。それでは、二人の為の馬車を用意させよう。さすがに、男二人と同じ馬車は嫌だろう」
「いいえ。私は一緒でも構いません」
「アメリア、それは兄上の言葉に従った方が……」
アメリアは首を振って否定した。
「馬車の手配を待っていたら、時間がかかってしまいます。到着まで三日もかかるのなら、早く出発した方がいいと思います」
それに、とアメリアはクリスを見つめる。
「早く済ませた方がいいですよね。こういったことは」
クリスは頷く事しか出来なかったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!