兄の来訪

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兄の来訪

その日の朝も、いつも通りに迎えるはずだった。 しかし、朝食を食べ終え、仕事に向かうまでの、ほんのひと時に、「それ」はやってきたのだった。 コンコンと、玄関のドアが控え目にノックされた。 「こんな時間に誰でしょう?」 「私が出るか?」 「いいえ。私が出てみます。クリスさんはコハクちゃんをお願いします」 クリスと共に食後のお茶を楽しんでいたアメリアは、コハクをクリスに任せると、玄関に向かった。 やがて、アメリアと客人が言い争う声が聞こえてきたのだった。 「あの! 勝手に上がらないで下さい! 探している人は、ここには居ませんから!」 「いいや。居るはずです。昨日、手紙を届けてもらった人に確認したので!」 クリスはコハクを庇いながら、アメリアの元に向かう。 そこに居たのはーー。 「マキシミリアン!」 「あ、に、うえ?」 かつての、人間だった頃の自分を知る者ーー実兄が居たのだった。 「じゃあ、この方はクリスさんのお兄さん?」 「ああ。私の一番上の兄上だ」 それから、場に漂う雰囲気に負けたコハクが大泣きした事を気に、三人はテーブルを囲んで座ったのだった。 三人の前にはアメリアが淹れた焦げ茶色のお茶が、白い湯気を立てていたのだった。 「一番上の……?」 「アメリア、私には歳が離れた兄が二人と、私と歳の近い姉が一人いるんだ」 「そう。コイツは俺たち四人兄弟の末っ子です。ちなみに、一番目の弟ーーマキシミリアンから見たら二番目の兄と、妹は既に結婚して家を出てます」 そうして、クリスの実兄はクリスの肩に腕を回す。クリスは眉を顰めると迷惑そうに、それを弾いたのだった。 「色々と聞きたい事があるんですが……。まず、クリスさんのお兄さんは何をしに来たんですか?」 アメリアは、泣き止んで腕の中で、おっかなびっくりクリスの実兄を見ているコハクをあやしながら尋ねた。 「何って……。ドラゴン討伐中に行方不明になった弟を探しに来ました。公式記録によると、弟はドラゴン討伐の任務中に死亡となっていましたが、居合わせていた騎士達によると、弟はドラゴンになったと話していました。それと同時期に、ドラゴンを討伐した地で、他のドラゴンが見かけられるようになったという噂を聞きました。もしかしたら、それが弟ではないかと、行方を探していたところです」 クリスの実兄は言葉を切ると、お茶を一口飲む。 「そのドラゴンの消息を追っていたところ、この地でドラゴンの消息が途絶えたのです。その後、近隣の村では若い男性が頻繁に来るようになった。それで、それが弟ではないかと考え、こうして直接、探しにやってきました」 「もしかして、村で噂になっている、身なりの良い見慣れない男性というのは……」 アメリアが伺うように視線を向けると、実兄は恥ずかしそうに話した。 「お恥ずかしながら、俺のことでしょうね。村人から聞き調査をしているうちに、怪しまれたようです」 バツが悪そうに頭を掻く実兄に対して、アメリアとクリスは困ったように顔を見合わせのだった。
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