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あーあ。
貴彪のヤツ、弟と嫁にこんなに悪口言われてんのに、全く起きてきやしない。
仕事の方、かなり大変なんだろうな。
ボクにまで、再々手伝えって言ってくるくらいなんだから。
もうちょっとしたら、また旅にでも出ようかなと思ってたけど。
次にもし、貴彪から頼まれたら、ちょっとくらいネクタイ締めて、手伝ってやってもいいな。
そしたらさ、美咲ちゃん。
君が貴彪と過ごす時間も、ちょっとくらいは増えるだろ?
下手にアイツの下にいて、痛くもない腹を探られたり、下らない意地悪をされるのはゴメンだって思ってたけど。
もし貴彪が、ボクにあってアイツにない何かを認めていて、ボクが役に立つって考えているんだとしたら。
あるいは_____
ねえ、貴彪。今、ボクはこう思ってるんだ。
藤城の家、父の信頼、部下、金、婚約者に美咲ちゃん。
ボクが貴彪に取られたのだと思い込んでいたものは、本当にボクが欲しいものではなかった。
それらを手に入れるための、覚悟も努力も、ボクには足りていなかった。
つまるところ。
どうしても欲しいもの、ボクはそれをまだ見つけられてすらいない。
いつもとは違うところに身を置けば、本当に欲しいと思う何かが、見つかることだってあるかもしれない。
執着して、努力して、無茶をしてでも手にしたい何かが。
運命に導かれるように_______
《おわり》
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