現在

6/6
前へ
/23ページ
次へ
あーあ。 貴彪のヤツ、弟と嫁にこんなに悪口言われてんのに、全く起きてきやしない。 仕事の方、かなり大変なんだろうな。 ボクにまで、再々手伝えって言ってくるくらいなんだから。 もうちょっとしたら、また旅にでも出ようかなと思ってたけど。 次にもし、貴彪から頼まれたら、ちょっとくらいネクタイ締めて、手伝ってやってもいいな。 そしたらさ、美咲ちゃん。 君が貴彪(あいつ)と過ごす時間も、ちょっとくらいは増えるだろ? 下手にアイツの下にいて、痛くもない腹を探られたり、下らない意地悪をされるのはゴメンだって思ってたけど。 もし貴彪(アイツ)が、ボクにあってアイツにない何かを認めていて、ボクが役に立つって考えているんだとしたら。 あるいは_____ ねえ、貴彪(アニキ)。今、ボクはこう思ってるんだ。 藤城の家、父の信頼、部下、金、婚約者に美咲ちゃん。 ボクが貴彪(おまえ)に取られたのだと思い込んでいたものは、本当にボクが欲しいものではなかった。 それらを手に入れるための、覚悟も努力も、ボクには足りていなかった。 つまるところ。 どうしても欲しいもの、ボクはそれをまだ見つけられてすらいない。 いつもとは違うところに身を置けば、本当に欲しいと思う何かが、見つかることだってあるかもしれない。 執着して、努力して、無茶をしてでも手にしたい何かが。 運命に導かれるように_______ 《おわり》
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加