過去

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一度、後藤田に勧められ、仕方なく貴彪の見舞いに行った。 ボクは、無理やり持たされた花束とフルーツを持参したが、貴彪はずっとベッドで眠ったままだった。 顔にも体にも、痛々しく沢山の包帯が巻かれていた。 その姿を見、ボクは彼が、心底かわいそうだと思った。 だって、彼がボクに勝つためにやってきた努力が、たった一瞬の事故で全て水泡に帰してしまったんだから。 空しいと思った。 ___________ それから半年後、父の誕生日祝いの席で、後継者が発表されることになった。 その日は朝から、ボクはどことなくソワソワしていた。 それは、ボクの周りの大人達も同じだ。 何とか意識を取り戻したらしいという、貴彪も出席するという話だったが、彼はもはや、過去の人だった。 最近では、かつて貴彪の取り巻きだった大人達も、ボクの方の陣営に近づいてくるようになっていた。 やがて、厳かな雰囲気を漂わせ、会場に、父が姿を現した。 きゅっと胃が縮まる思いがした。
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