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貴彪は、今回の事故が故意に起こされたものだったこと、運転手の機転で、大惨事を免れたこと、企みに気付き、身の危険を感じた彼は、主治医に頼んで半年間も寝たきりを装っていたことなどを、淡々と説明した。
さらに彼は、これまでに、他にも様々な妨害を受けてきたことを父に告白した。
ただ、その言いぶりは、恨みつらみに終始するでもなく、感情的になるでもなく、犯人探しに走るでもなく。
ただ淡々と、まるでそれが日常茶飯事のような言いぶりだった。
今度は、ボクが追及される番だった。
「…さあ、将馬よ。貴彪はこう言っておるが…お前はこれをどう説明する?」
ボクに向けられた父の目が、冷たく光っている。
「ボ、ボクは…ボクは何も、知らない…」
本当に、ボクは何も知らなかった。
貴彪が、そんな妨害を受けていたことも、ましてや車に命にかかわるような細工をするなんて!
だが。
父は、いや。
貴彪も、周りの皆もボクがやったと疑っているのだろうか。
父は、少しでも返事が遅れることを許さない。早く否定しなければ、ボクは犯人にされてしまう。
それなのに、ガクガクと口が震えて、喋れない。
コワイ…
父の目が。
貴彪の目が、皆の顔が。
ボクが、全てを失うことが。
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