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寝室は屋敷の2階の奥だ。
ボクに担がれても全く起きる気配のない貴彪を背負い、美咲ちゃんと並んで、僕らは長い廊下をゆく。
ずっしりとりた貴彪の重さを背中に感じながら、
ふと、考えた。
__お前には、いい味方がいて羨ましいよ。
人格の差だな__
あの日、最後に言われた言葉。
あの時は、貴彪らしいイヤミだと聞き流したが…
案外あれは、彼の本心だったのかも知れない。
高校生とはいえ、所詮はまだ子供だった貴彪は、ひとりっきりの孤独な戦いを強いらている間、ボクは、きっちりと後藤田に守られていた。
ボクはずっと、後藤田は自分の立身出世のためにボクを後継者に据えたいのだと思っていた。
でも彼は、罪が露見してもなおボクを庇い(まあ、アイツがやったことなんだが)、その後もなお、ボクを父に押してくれた。
自分のための部分がまるでなかったとは思わない。それでも彼は、任務に対して忠実だった。
もちろん、彼の使った手段は許されるものではなかったが。
比べて、貴彪の守役だった男は、アイツの半身不随の噂が流れるとすぐにボクの陣営に乗り換えた。
信じられ、甘えられる大人がいたボクのことが、貴彪は本当に羨ましかったのかも知れない。
後藤田には、きっと分かっていたのだ。
あの頃にはもう、ボクと貴彪、トップとしての器の違いは歴然としていた。
あの後、後藤田に言われた言葉。
“私は、将馬様を高潔にお育てしすぎたかもしれません”と。
その後、後藤田は罪を赦され、父の側近として再び頭角を現した。
その彼を今、貴彪は、自分の側近として置きつづけている。一度は自分を窮地に追いやった、憎んで当然の男を自分の側に。
貴彪はあの時、後藤田の取った行動を、ボクの人徳のおかげだと、自分と比較し、冷静に評価していたんだ。
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