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貴彪は、全く不器用な奴だった。 愛想良くにこにこしていればいいものを、相変わらずの仏頂面でいるもんだから、瑠璃子お嬢さんと仲良くなったのもやっぱり僕だった。 瑠璃ちゃんが遊びにきて3人でいるときは、僕ら2人が一緒で、貴彪はいつも1人ぼっち。 本当、要領悪いよなコイツ。 ずっとそう思っていた。  その日が来るまでは___ それからのボクは、ちょっと本気になっていた。あの可愛い瑠璃子とケッコン出来るのは、すなわち、お父様に認められたどちらかだ。 出来のいい方が、お金も、瑠璃ちゃんも、お父様の信頼も、全部を手に入れられるんだ。 逆に、そうでなかった方は惨めな敗者、なんにも貰えず、勝った方の命令を一生聞き続けなきゃならない。 負け犬だ。 守役だった後藤田は、ボクが少し、真剣に物事に取り組み始めたのを見て喜んだ。 ボクに芽生えた敵意を見抜き、ことあるごとに、『貴彪様に負けてはなりません』と煽った。 それもあって、ボク達はますます仲が悪く、大人達の思惑どおりに、勉強も運動も頑張らされることになった。 貴彪(あっち)も頑張っているようだったが依然、ボクの優位は変わらないまま、小学校の低学年と呼ばれる時期が終わった。 瑠璃子ちゃんもずっと、乱暴な貴彪よりは、ボクとの方が仲が良かったし、後藤田も、誰もかもが、ボクが跡取りになるのだと信じて疑わなかった。
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