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これまで、石堂とは一日一度は何かしら連絡を取り合って来た。どれも他愛ない話だったけれど、いつの間にか毎日の日課になっていた。
けれど、それが突然なくなってしまった。石堂からの連絡が途絶えたのだ。
「そのことに気づいたら、なんだか私から連絡をすることが憚られて」
「なんでよ。紫に連絡する時間がないくらい、石堂くんが忙しいってことでしょ? だったら、紫から連絡してあげたら喜びそうだけどね」
「うーん、本当に忙しいならね……」
急に連絡が途絶えたのには、別の理由があるのではと紫は思い始めていた。
「石堂に、彼女が出来たのかもしれない」
これまでも石堂は色々な女性とデートはしていたようだけれど、誰とも本気で付き合ってはいなかった。けれど、恋人候補はたくさんいたわけで、いつそれが本気の恋愛に発展してもおかしくない。
いつか石堂が言っていた。彼女がいる間は、プライベートで他の女と二人になるなんて不誠実なことはしない──と。
「……そっか、やっぱりそういうことか」
一人納得する紫の横で、ぼそりと聡子が呟く。
「石堂くんに彼女が出来たら、それこそ社内で噂の的だと思うけどね」
「え? 何か言った?」
「なんでもなーい」
聡子はお茶を飲み干すと、トレイを持って立ち上がる。紫も残りの昼休み時間を確認し、聡子の隣に並んだ。
(そう言えば、最近食堂でも石堂を見かけない……)
紫は、無意識のうちに石堂の姿を探している自分に、気づいていなかった。
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