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「華原さんっ」
仕事に区切りがついたところで、帰宅の準備を始めた紫の側へ、同期の西川沙織がにこにこと笑いながらやって来た。
何となく呼ばれた理由は想像できる。
紫は「げっ」という心の声が漏れないように、西川に負けないくらいの飛びっきりの笑みを返した。
「何?」
「今夜、ちょっと付き合ってくれない? 営業部の同期と飲み会があるんだけど、どうしても華原さんを連れてきてくれって頼まれちゃって」
予想を裏切らない誘いに、ため息をつきたくなる。
同じ秘書課に配属された同期は西川だけだが、どうも入社当時から彼女に毛嫌いされているように紫は感じていた。
聡子から、西川が石堂を狙っているという話を聞いた後は、彼女が自分に対してつんとした態度をとる理由も理解できた。
紫からすれば実際のところ、石堂とは深い付き合いはないのだから、いい迷惑以外の何物でもない。
しかし、そんな西川がなぜか最近、嫌っているはずの紫に、週末こうしてたまに声をかけてくるようになった理由が分からない。
「う~ん。申し訳ないんだけど、今日は先約があるから……」
「先約?」
西川の目がその言葉に反応してか、鋭いものに変わるのを紫は見逃さなかった。
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