1章 ただの同期です

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『今日、いつものとこに19時でいい?』 つい数分前に社食ですれ違った彼──石堂帝(みかど)から、スマホにメールが届いた。 『うん。今日は定時で上がれそうだから大丈夫』 そう直ぐに返事を送りスマホをテーブルに置くと、紫(ゆかり)の向かいに座る同期の栗山聡子(さとこ)が顔をにやつかせながら言った。 「もしかして、石堂くん?」 「……そうだけど」 何がそんなに嬉しいのか、聡子はますます笑みを深くする。次に言われることは分かっていた。 「やっぱりさ、あんたたち……」 「付き合ってないから」 紫は深い溜息をついた。 もう何度同じ台詞(せりふ)を口にしただろう。しかも、相手は聡子だけではないのだ。 どういうわけか入社当時からずっと、同期の石堂と自分は付き合っているんだという噂が絶えない。 「何度も言ってるけど、石堂と私はただの同期。それ以上でも以下でもないの」 「紫、それ本気で言ってるの?」 「当たり前。石堂だって、否定してるはずだけど?」 「いや、単なる照れ隠しだって皆思ってるよ。だってあんたたち、誰が見たってラブラブのカップルにしか見えないよ?」 「……どこが?」 全く意味が分からない。社内でいちゃついてるっていうならまだしも、ただ顔を合わせれば会話をして、こうして時々メールしたりする。それだけなんですけど?
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