3章 変化

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* 「華原さん、A会議室で部長がお呼びよ」 昼休み明けすぐ、秘書課の部長から呼び出しがかかった。 何かあっただろうかと訝しむも、声をかけてくれた先輩秘書は、用件だけを告げ席へ戻ってしまった。とにかく、行くしかなさそうだ。 筆記用具を片手に、A会議室のドアを叩く。「どうぞ」と返答があったことを確認し、中に入った。 「お呼びでしょうか? 夏目部長」 「華原さん、突然呼び出してごめんなさいね」 紫より15歳年上の夏目部長──夏目万里子は、社内で唯一の女性部長だ。新卒で入社後、秘書の仕事一本で部長にまで伸し上がってきた。 キャリアを望む全ての女性の目標となる人物である。もちろん、紫にとっても例外ではない。 紫が席につくと、夏目部長は少し言いにくそうに「実はね」と切り出した。 「来月華原さんに、異動辞令が出ることになったの。異動先は、営業部。谷川本部長の秘書についてほしいの」 「来月ですか!?」 突然の辞令に、紫はさすがに驚いた。 この会社は、異動が決まると一ヶ月前には本人に告知される暗黙のルールになっている。 それなのに、来月の異動となると、既に紫に残された時間は二週間しかない。
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