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「あ……」
声の主は石堂で、向こうも立ち止まって紫を見ていた。
「珍しいな、華原がこんなところにいるの。営業に用事?」
「あ、うん。谷川本部長にご挨拶に……」
「本部長に? 何で?」
「もうすぐオープンになると思うけど、私、来月から谷川本部長の秘書につくことになったの」
「え? じゃあ、華原もうちのフロアに来るんだ?」
小さく頷くと、石堂は笑顔になった。
「だったらこれから誘いやすくなるな。よろしく!」
紫の異動を、素直に喜んでくれるらしい。「こちらこそ」と返し、ふと隣の女性を見やると、彼女は面白くなさそうにこちらを見ていた。
(あぁ、なるほどね……)
その視線の理由を瞬時に理解した紫は、「じゃあね」と石堂に言って踵を返した。
*
石堂からの誘いは、思いのほか早くにあった。
営業部ですれ違った翌日、「今日会える?」と携帯に連絡が入り、紫はすぐに返事をした。
二人行きつけのバーで待ち合わせをして、午後8時に落ち合う。
先に到着していた石堂は、既に一杯始めていた。
「それにしても、華原が営業に来るなんてな」
紫もカクテルを頼んだところで、石堂が口を開く。
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