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「あぁ……柏木さんね」
「私、ちょっと牽制されちゃった」
「ふーん。華原に牽制とは、あの子もやるなぁ」
苦笑いしているところを見ると、石堂はとっくにその柏木さんの気持ちに気づいているようだ。
「今石堂が面倒見てる子?」
「今のプロジェクトだけね。入社3年目の子で、そろそろ一人立ちさせようと上が考えててさ。引き継ぎがてら、俺に同行してもらってんの」
「へぇ〜。それで、その苦笑いの理由は、仕事そっちのけでアプローチされてるとか?」
それには応えず、石堂はグラスに残っていたビールを一気にあおった。
「さっき、今の営業には仕事中にちょっかい出せる余裕があるやつなんていない、って言ってなかった?」
「……訂正。女にはいる。うちの紅一点で若いから、周りもちょっとちやほやしちゃってさ。入社3年目でまだ一人立ちできてないって、うちではだいぶ異常なんだよ。でも、今のプロジェクトも落ち着くし、俺は昨日で完全にフェードアウトしたから、もう関わる必要もない」
「ふ〜ん……」
関わる必要なくても、向こうから関わってきそうな雰囲気だけど──という言葉は、なんとか飲み込んだ。
石堂がモテることは、今に始まったことじゃない。
昔の苦い経験もあって、石堂は社内の女性とは仕事以外で関わらないようにしている。
そんな彼なら、きっと柏木さんのこともうまく対処するのだろう。
そんなことを考えながら、紫はおかわりのカクテルを受け取った。
最初と同じものを頼んだはずなのに、なぜか少し苦く感じた。
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