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正直なところ、噂になっている石堂のことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
しかしそれはあくまで友情であって、愛情じゃない。それはきっと石堂も同じこと。
付き合いも三年になれば、気心も知れてお互い気を遣わなくてすむから楽なのだ。下手に社内の同性と付き合うよりも、石堂との方が変なプレッシャーも感じない。
お互いに時間が空けば、気楽に誘い合える関係。もちろんその誘いは気が乗らなければ断ったっていい。
相手が同性だったら、あとあと何を言われるか分からないし厄介なことになりそうだから、そう簡単にはいかないだろうけれど。
「百歩譲って、紫が本当に石堂くんのことをただの同期だって思ってるとしても、あっちは違うと思う」
「えー?」
「石堂くんは絶対に、紫を『女』として見てるよ」
あの石堂が、私を女として……?
紫は腕を組みながら、うーんと唸った。
石堂と紫は今、お互いに恋人がいない。とは言え、美男美女として社内では有名な二人は異性から誘われることも多く、決して暇を持て余しているわけではない。
石堂はその時の気分で、適当に女の子の相手をしていると本人から聞いたことがある。「あ、もちろん清い関係だから」と、聞いてもいないのにそんなことを言っていたが、それが事実かどうかは怪しい。
例え事実であろうがなかろうが、自分たちは本当に付き合っているわけではないので、そこはさほど重要なポイントでもない。
不思議なのは、こんな風に隠しもせず大っぴらに女の子と出かけている石堂なのに、どうして自分が彼女だと思われているのか、ということだ。
どうやらそれは、石堂が同じ女の子と二度目のデートをしない、ということにあるらしい。紫とは何度もデート(?)を重ねているのに。
それ故、やっぱり本命は華原さんなんだ──と、勝手に他の社員の中で結論付けられているのだという。
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